古人曰く。
『正義は勝つ』
それは間違いではないが、正解でも無い。
何故ならば……
「白眼!」
瞳にチャクラを集中させ、ヒナタは前を睨みつけた。
目の前には憧れの存在である、金髪の少年が立っている。
しかし……その眼は真紅に染まっており、普段とは違う雰囲気を宿していた。
それもその筈。
だって、彼は『彼』では無いのだから。
「さぁ……かかって来な」
軽く姿勢を低くし、彼は笑う。
片手には落ちていた木片を握り締め、ヒナタが来るのを待っていた。
「はぁああ!!」
手の平を前へ突き出し、足を狙う。
彼は飛躍にてそれを避け、木片をヒナタの首へと落とす。
木片をしゃがみ込み紙一重で避けるのを見届けると、彼は小さく笑う。
その笑みは……作り物だったが。
「踏み込みが甘い、もっと素早く……鋭く!」
「はい!!」
続けて手の平を腹へと向けると、彼は身体を後ろへ逸らした。
限界まで逸らされた背。
まるでバネの様に戻る身体、顔が攻めていたヒナタの間近まで迫ってきた。
「っ!!」
中身が違えど、身体は同じ。
どうしても顔は真っ赤に染まってしまう。
「あのっ……えっと」
「遅い」
何も言う必要が無い筈なのに、何か言わなければならない感覚に陥る。
シドロモドロになるヒナタの足を木片で払えば、重力に従ってヒナタは大地に倒れこむ。
慌てて立ち上がろうとするが、すぐに動けなくなる。
目と鼻の先に……木片の切っ先があったから。
「あっ……」
修行終了。
今日もまた……上手く出来なかった。
ナルトの内に封印された獣、九尾。
その尾に宿る人格達と知り合ってから、ずっと続けられている秘密の特訓。
彼らの実力は急速に高まり、その辺の忍にならば遅れを取る事は無くなっていた。
しかし……一人だけ、その実力を発揮出来ない者が居た。
日向ヒナタ。
元々戦いを好まない性格から、その身に宿る力を捜索にしか使おうとしない。
特訓により力は間違いなく上がっている。
それなのに……
「どうした?最近……妙に動きが鈍いが」
倒れたヒナタへ手を差し伸べつつ、彼が首を傾げる。
ナルトに一番性格が近い、礫だ。
礫に腕を掴まれ、ゆっくりと立ち上がったヒナタは足元に視線を向けた。
「ご……ごめんなさい」
「えっ?いや、別に……謝られても……」
持っていた木片を捨て、礫は冷や汗をかく。
礫としては、思った事を口にしただけ。
謝罪されても困ってしまうのだ。
「次は俺と赤丸だぜ!今日こそ覚悟しやがれよ!」
「わんわん!!」
後ろから聞こえた声に反応し、礫はそちらへと視線をやる。
「へっ!上等だ!やれるもんならやってみやがれ!」
右腕を前へ突き出し、礫は答えた。
ヒナタは彼らの修行を邪魔しないよう、脇へと小走りに向かう。
「……」
森の木々を見つめ、ヒナタは小さく溜め息をつく。
隣で休んでいたサクラといのだけに、その溜め息が届いた。
「どうしたの?」
「何か悩み事?」
続けて聞こえてくる声に、ヒナタは驚きの表情を見せる。
「えっ!?」
一体なんと答えれば良いのか、そう思うヒナタへ二人は微笑む。
「もし、一人で悩んでも答えが出なかったら私達に相談してよ」
彼女達はただの同期の忍では無いのだ。
同じ秘密を所有する、仲間なのだから。
サクラの優しさに胸が、心が温かくなるのをヒナタは感じる。
「有難う……けど、悩みっていうか……なんていうか……」
悩み。
この胸のもやもやを一体どう表せば良いのか、ヒナタは上手く言葉に乗せる事が出来なかった。
ナルトを護りたい。
その思いは皆同様にある。
しかし……彼を護る為に誰かを傷つければ、更なる負の感情が生まれるのでは。
彼は優しいから。
他の誰かが傷つくのを黙って見ている事が出来ない。
自らが血塗れでも、彼は戦うだろう。
誰かを護る為に。
その相手が……自らを傷つけた相手でも、誰かに害されれば護るだろうから……
そんな彼の為、自分は一体何が出来るのだろうか?
その思いはグルグル回り、思考の袋小路へと閉じ込められてしまった。
「ヒナタ……」
所々言葉に詰まりつつ、彼女は自らの思いを語ってくれた。
ナルトと同じように、慈悲の心を持ち合わせている彼女だから。
この心の一部でも、里の者達に分けてやれれば……里はもっと幸せになれるのではないだろうか?
「知ってる〜?ヒナタ」
「えっ?」
ヒナタの肩へと腕を回し、いのが不適な笑みを浮かべる。
この笑みを浮かべている時のいのは……大抵が何かを企んでいる時だ。
それなりに長い付き合いのサクラが過去、何度も見た事のある笑み。
「ナルトの担当教師、あいつの盗撮写真持ってるらしいわよ」
「「え゛」」
あまりにも突然すぎる言葉に、残りの二人の思考が停止する。
ヒナタに至っては、呼吸をする事すら忘れていた。
近所の店からの帰り、その手にはナルトへの差し入れとして購入した生野菜達が。
自分と違い、料理がナルトは上手いのだが……どうしても野菜はあまり食べようとしない。
だから毎日の様に差し入れをしてやっている。
いつも口では文句を言っているのだが、その表情は嬉しそうなのだから。
それ程嫌がっている訳ではないのだろう。
「うんうん、可愛い生徒の為に今日も頑張っちゃうよ〜?」
上機嫌な彼の足取りはとても軽い。
「ん?」
ふと、足元の影に自分以外の影が出来ている事に気がつく。
一体この影は何だろう?
何気なく、顔を上へと向けてみると……
鼻へ衝撃が走った。
「ぶっ!!?」
一体何が!?と、疑問が浮かぶより先に舞う身体。
それでも野菜の入った袋は死守。
マスクで隠した鼻を押え、顔を上げるが……太陽の光によって目の前に立っている存在の顔は見る事が出来ない。
「だ、誰……?」
問うが先か、痛みが先か。
逆光で見えぬ存在は無言で拳を振り上げた。
その拳にはチャクラが宿り、赤い光を宿しているのが……見えた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
里内に悲鳴が轟く、まるでホラー映画のワンシーンの様だった。
轟く悲鳴に驚き、里に住んでいる鳥達が一斉に飛び立った……
「ヒナタ」
「?」
ボロ雑巾の様な姿と化した覆面教師の身体を引き摺りつつ、サクラは微笑む。
その頬に赤い液体がついていたが、敢えて見ない振り。
「確かに……一人を傷つければ、また誰かが傷つく。
その連鎖は一度起きれば止まる事は無いわ」
九尾に殺された者を想い、ナルトを傷つける。
ナルトを庇う為、別の存在を傷つける。
一度始まった負の感情を止めるのは、とても難しい。
けれど。
「でもね、私はナルトが傷ついて……それで済むような世界なら……滅んでも良いって思ってるの。
あいつがいつも笑っていられるなら、私は誰に幾ら恨まれても構わないわ。
だってあいつは私の『弟』みたいな存在だし」
その為ならば、自らの担任だってこの通り。
「……私も……ナルト君に笑っていて欲しい」
でも、誰も傷つかないで欲しい。
この考えは甘いのかもしれない。
分かっている、分かっているのだが……願わずにはいられない。
誰も傷つかないですむ世界を。
「じゃあさ、私達で作れば良いじゃない」
後ろからサクラに抱きつき、いのが笑う。
サクラの頬に飛び散った赤い液体を持っていたハンカチで拭いつつ。
「私たちで……?」
「そうよ、私達にはそれが出来るだけの力を手に入れる『チャンス』があるじゃない」
今以上に強くなり、その力を自らの信じる道に使えば……
ナルトの夢は『火影』なのだから。
きっと出来る。
彼ならば……
「!…………うん!!」
まだ迷いは消えない。
それでもその足取りに迷いは無かった。
勝ち残れば、正義も悪も存在しない。
勝ち残った方が、問答無用で『正義』なのだから。
負けて滅んだ方が、問答無用で『悪』なのだから。
滅ぼされた者に、反論する言葉は残されていないのだ。
「お……俺が……何を……したって言うの……?」
死人に口なし。
死人に妄語。
Dean men tell no tales.(死人は秘密をもらさない)……である。
相互リンクの記念に頂きました。
尾シリーズでリクは女の子たちが活躍する話。
葉月さまのシリーズでのリクをさせていただきました。
書かれるのがとても早くて驚きました。
ありがとうございます。
これからよろしくお願いいたします。