ご褒美をあげよう。

その一言で始まった争奪戦は……
木の葉の里に語り継がれるだろうほどに。
すさまじかった。










「マジで!?」
「それ、嘘じゃないですよね!?」
 期待に目を輝かせて聞かれ、メイとケイはくすりと笑う。
「嘘じゃねーよ。やるよ、ホントにな」
「まあ、めんどくせーけど」
 二人の笑みに感極まった少年がよろけ、薄幸の美少年よろしく額に手を当てる。
 が、二人にとってそれはただの大げさな動作にしか見えず、結果内心で引かれることになったのは言わないほうがいいだろう。
「ご、ご褒美……ぶはっ」
「ぎゃー!! 鼻血をこっちにやるな!!」
 よろける少年がいれば、今度は鼻血か。
 二人は淡々とそれらを見やっている。
 もはや全て慣れた現象だ。
 しかし仮にも教師が鼻血を出した生徒を手当てしないわけにもいかず、仕方なくケイがその生徒の鼻血を止めるべく動く。
 だが、悲しいかな。それは生徒にとっては過大な恩恵だ。
 鼻血を出した生徒は、ケイの腕が頭に触れたことで気を失った。
「……保健室、連れてけ」
 ケイはその一連の動きを見終わった後、近くに居た生徒に言伝し、立ち上がる。
 さらりとこぼれ落ちる漆黒の髪。
 端正なその顔は、着ている白衣が似合いすぎてどうにも生徒の熱を上げる。
「ご褒美と言わず、なんだったら俺をあげます!!」
「そうです、そのほうがいいです!!」
「お二人の僕になれるなら、どんなことだってしますよ!!」
 熱烈なラブコールだ。
 ケイはため息を一つして、気だるげに言う。
「……保健室じゃ間に合わねーな。病院だ、精神科か脳外科に行って治療してもらえ」
「精神科!? やっぱりこれは重病なんですね!!」
「恋煩いという病気……でも、これは医者じゃ治せないんだって言ってましたから!!」
「どうせだったらケイ先生に治して貰いたいです!!」
「俺はメイ先生に!!」
「おいおい、俺は医療忍術はちょっとかじってる程度だぞ?」
 メイが笑い、その生徒の頭を撫でる。
「お、俺!! この頭自分じゃ洗えません!!」
「ん? じゃー今度銭湯にでも行って洗ってやろうか?」
「ほ、ほほほほほほ本当ですか!?」
「俺が嘘言うのは任務の時だけだぞ?」
 お前らに言った事はないはずだけど?
 と誑し込むような微笑付きだ。
 生徒は実に幸せな顔でぼぅっとメイの顔を見上げている。
 ケイはそれを見ながらそっとため息をついた。

 ホント、誑し込むのが上手い……

 手玉に取る、というのはこれを見本にしたほうがいい。
 そんなことを思いながら、この騒動の発端となった事を思い出していた。



「メイ先生、ケイ先生、ちょっとよろしいですか?」
 昼食を摂ろうと屋上への階段を上りつつあった二人を呼び止めたのは、鼻に一文字の傷がとりわけ目立つ教師、イルカだった。
 この教師のことを気に入っているメイはにこやかな笑顔を浮かべて、足を止めた。
 どこにでもいそうな……いや、こんなご時世だ。今時珍しい穏やかな内面をにじませ、生徒一人一人を大事にしている姿勢は、おそらくこのアカデミーの中でも人気があると思われる。
 決して美貌を持つわけでも、端正な顔立ちをしているわけでもない、優しい平凡な顔。
 けれどその優しい顔に癒される者は数多く居る。
 メイとケイの次に、隠れファンの多い教師だった。
 こんな人間を純朴だと言うのだろうな、とケイはいつも思っていた。
 そして、そんな人間だからこそメイは彼を慕わずにはいられないのだろう。
 イルカはメイの笑顔にやや頬を赤らめ、ぽりぽりと頬を掻いた。
「あの、ですね……お二人がとても有能な方だと聞いています。それでですね、ちょっとお願いしたいことが……」
「なんですか? イルカ先生の頼みごとなら、引き受けますよ」
 ニコニコと笑って、メイはイルカの元へと降りていく。
 それに引きずられるようにケイも階段を降りていく。
 ……嫌な予感に眉根をしかめながら。
「えーと、実は恥ずかしながら私の担当するクラスが、お二人の講義を受けたことがなくて……」
「ああ、そういえばそうですね。一年には俺の担当する実務演習がハイレベルだ、とか昔言われちゃいまして。成績のいいクラスを見て、俺がちょっと受け持つ時もありますが……イルカ先生のクラスはまだでしたね。もうちょっとすれば日程が合い次第、入れるつもりでしたよ。基礎医療は二年になってからですから、ケイ…先生の授業はまだ先ですけど」
「はい。ですから何度もあと一年すれば教われる、と言ったんですが……」
「なるほど、俺らの講義が受けたい、と」
 微かににやり、とメイが笑った瞬間を見てしまったケイは、遠い目をした。

 こいつ……絶対何か企んでやがる……

 即座に頭に『めんどくせー』の文字が浮かぶ。
 こうなればさっさと逃げるに限る。
 どうせメイかケイ、どちらかの授業さえあればいいのだろうし。
 そっとメイに気付かれないように足を後ろへと向ける。
 メイはまだイルカとの会話を楽しんでいる。
 今ならばまだ間に合う。
 ケイはこちらを向いているイルカにも気付かれることなくそこを抜け出そうとし……
 次の瞬間思いっきり叫んだ。
「もちろん、お引き受けしますよ。俺だけじゃ物足りないでしょうから、ケイと二人で」
「はぁっ!?」
「なんだよ、嫌なのか? わざわざイルカ先生がこうして頼みに来てるってのに」
「お前だけでいいだろうが!! 俺を巻き込むな、俺を!!」
「ケイ……俺が頼んでも、嫌なのか?」
「嫌だろーが、普通!! めんどくせーだろ!! つーか、そんな授業変更、誰が許可するんだ!!」
「……ふーん、嫌なんだ? どーしても?」
「……な、何だよ……俺はめんどくせーことはしねーぞ」
「そっかー嫌なのかー、じゃあ今度からはお前が面倒だろうからって断ってきたラブレターとか、ぜんっっぶ、お前に渡す。ああ、今まで溜まってたのも渡しとく。処理すんの大変だろうけど、頑張れよ」
「……おいっ!? なんでそうなるんだ!? それとこれとは別だろ!? つーか、お前が、俺がラブレターにかかずらってんのが嫌だからそうしてきただけだろ!!」
「うん。そう。でもお前がイルカ先生の頼みごと、俺から頼んでも引き受けてくんないなら、嫉妬は我慢する」
「……あーもー……なんなんだよ、お前は……。俺がめんどくせーのが嫌いだって、良くわかってんだろ?」
 ケイがため息をつきつつ、そう言えばメイはにっこりと笑う。
「良く知ってる。お前が物には釣られないけど、後々の苦労より一度の苦労のほうがマシ、だっていう性格は」
「……そうだな、俺も良く知ってる……お前が自分の目的のためならどんな脅しも厭わない性格だって事は……」
 にっこりと笑い続けているメイと、嫌そうな顔をしているケイがしばし火花を散らし……ついにケイが折れた。
 所詮、意志の固すぎるメイに、面倒だと思っているだけのケイが敵うはずはないのだ。
「……判った。でも、一度だけだからな。脅しはそう何度もできるもんじゃねーぞ」
「その時は別のネタで揺するから平気」
「……。いつかその言葉、後悔させてやるからな……」
 ポツリと呟き、ケイはそれで、とイルカに目を向けた。
「そう言うからにはこの授業変更の許可は取れてるんですよね? いつですか?」
「本当ですか!! ありがとうございます。お忙しいのに……無理を言ってしまって。えーと、許可は取ってあります。日にちは……私の担当する授業とお二人の授業がかち合わない時間を探して取ってもらったので、もしかしたらご都合が悪いかもしれませんが……」
 イルカは言いよどみ、困り顔で続けた。
「明日、です」
「明日ぁ!?」
「うわ……」
 さすがのメイも絶句し、苦笑する。
 ケイは今夜の任務を思い出し、頭痛さえしてきたような気分になった。
「やはり……無理でしょうか……。私も他の日はどうかと言ったんですが、そうなると二ヶ月は先になると言われてしまって……」
 すみません、と告げる顔は本当に申し訳なさそうで、メイはもとより、ケイも文句が出てこない。
「……いえ、いいですよ。やると言ってしまいましたし。何の授業をするかはこちらで決めていいんですか?」
「あ、はい!! ただ、まだ一年なのであまり高度なことは出来ないと思います。それを踏まえてのことでしたら、何の授業でもかまいません」
「そうですか。……ほら、メイ。お前が引き受けたことだろうが。俺にばっかしゃべらせんじゃねー」
「んー、でもお前が全部聞いちまったし。それじゃあイルカ先生、明日の授業はちょっとお借りしますね」
「本当にありがとうございます。それでは、私はこれで」
「ええ、それでは」
 メイがにこやかにイルカを見送ると、その視線をケイに寄越した。
「今夜の任務、どうする? 遊べなくなっちまった……」
「それは、残念なのはお前だけだろ。俺は遊ばないほうが早く帰って寝れるし」
 ケイは言って、あくびを一つして屋上への階段を上がる。
 そのケイを追ってメイも階段を上り、二人揃って授業の始まる前まで惰眠を貪った。



「何の授業するかと思えば……今までに習ってきた事の総復習テストね……」
 ケイは口中で呟き、必死にテストに取り組んでいる生徒たちを見つめる。
 みな必死だ。メイの言い出したご褒美の話は昨日寝る前に聞いて知っていたが、そのたった一言でここまで躍起になる生徒も居ないだろう。
 そのご褒美の内容を知ったら……ますます手のつけられない事態になったことは確かだ。
 ケイは考え、隣で立ったままのメイを見上げる。
 採点者はケイ。時々落ちてくる前髪を掻きやり、時間が終わるのを待った。



「はい、そこまで」
 メイの一声で生徒たちからうめき声やら、隣の友人と答えを合わせている声が響く。
 その生徒たちから一人一人の答案用紙を回収し、メイがケイの前に置く。
「んじゃ、採点よろしく」
「はいはい……」
 言われ、ケイが採点を素早くしていく。
 復習もほとんど出来なかったにしては、なかなかいい点ではないだろうか、と思いつつ進めた。
 その採点が終わる頃には、教室中の視線がケイに集まっていた。
「……んじゃ、成績上位者を発表するぞ」
「呼ばれた奴は前に出て来いよ」
 生徒たちが期待を込めて二人を見つめる。
「まずは……イチリ、カズハ、ケヤキ、スズナ、チカク、ハヤカゼ……最後はヤジリだな。良く頑張った」
「このテスト、結構難しくしたんだけどなぁ……この七人の平均正解率は87パーセント。文句なくすげーぞ」
 柔らかく笑みを浮かべながら、七人の生徒の頭を撫でる。
 それだけでご褒美と言われてもまったくかまわない!! と言いそうな顔でメイを見上げる。
 普段はだるそうな顔をしているケイも、珍しく頬を緩め、その笑みを間近で見られた生徒に嫉妬の視線が突き刺さる。
「んで……ご褒美なんだが。実は一人くらいしか80以上取れる奴いないだろうな、と思って作ったもんだから一人にしかやれねーんだよ。まあ、そーすると最高点を取った奴にやらないとな」
「この七人の中で最高点を取ったのは……一人だけ90以上の98点を取った、スズナ、お前だ」
「えっ!?」
 呼ばれた生徒の一人は、さも意外なことでも聞いたように目を見開いて驚いている。
 茶の髪に金の髪が幾筋が混じる、色素の薄い翠の目。
 今はまだ少年らしい丸みを帯びた顔は、成長すればなかなかの綺麗な顔立ちになるだろうことを思わせる少年だった。
 その少年を見ながら、ケイは少年の答案を返す。
「お前がつまずいたのは最後の問題だな。つーか、これ途中までは合ってんだよ。だけど、計算ミスと、それに合わせようとしたんだろうな。ちょっと違う理論を立てたもんだから間違えちまった。それ以外はちゃんと何度も見返した様子が見て取れるし、正解率は見事なもんだ。俺が考えた最後の問題、その歳でここまで出来た奴はおまえが初めてだ」
 柔らかく微笑んだケイに、スズナが頬を染める。
 返された答案用紙を抱きしめて、幸せそうな笑みを浮かべた。
「あ、ありがとうございます。もう必死で……脳の中ひっくり返しました!!」
 そんなスズナにメイがもう一度頭を撫で、肩に手を置いて他の生徒に視線を向ける。
「お前ら頑張れよ〜? 俺が言うのもなんだけどよ、ケイがここまで褒めた生徒って卒業した奴らの中にも、今の二年の中にもいねーからな。それにこの問題、俺もちょっと手こずっただろうし……スズナ、お前暗号解析の道に進んだらどうだ?」
「そんな!! 暗号は好きで自分でちょっと調べたことがあるだけで……」
「好きこそ物の上手なれ、てな。暗号解析の道に進むんならケイが直々に教えてくれると思うぞ?」
「あ……それはいいかも……。うーん、そそのかされるなぁ……」
 真剣に悩むスズナに、ケイとメイが笑い、それにつられたように生徒が笑う。
「そーいや、スズナってどう書くんだ?」
「え? ああ……えーと、なんか男っぽくないんですけど、糸偏に少ないでスズ、ナは奈良の奈、です」
「へぇ? 綺麗な名前だな。ケイ、お前もそう思うだろ?」
「そうだな。お前は秋生まれか? 違うんだったら、両親の思い出でもあるんだろうな。薄絹に包んだカラナシの実でももらったかあげたか……」
「あ、そういえば……父が、母にプロポーズするとき薄絹に包んでカラナシかどうかは判りませんけど、花をあげたそうです。母が気障な人だわ、て笑ってました」
 スズナが笑い、その話を聞いた生徒がくすくすと笑いをこぼした。
 メイとケイもまた微笑み、授業の終わりを飾る今回の一番の楽しみを切り出した。
「さーて? 問題のご褒美だ。スズナちょっとだけ顔上げろ」
「はい?」
 言われるがまま顔を上げた少年の頬に、メイの唇が寄せられ、音を立てて離れる。
「わっ!?」
「せ、センセー!?」
「ああっ!!」
「いいなぁ……」
 生徒の悲鳴と羨ましそうな視線がスズナに向けられた。
 嫉妬の視線も混じるが、悪意のあるものは感じられない。
 スズナはこのクラスの中で好かれているようだ。
「んじゃ、俺もだな。ほら、顔を上げろ」
 ケイのその言葉にスズナが音でも立てそうなくらいに首を振る。
「で、出来ません!! そんなことされたら気絶しちゃいます!! いえ、死んじゃうかもしれません!!」
「頬にキスで死んだ奴は見たことないから安心しろ」
「で、でででで出来ません!! もう間近で見れただけで幸せですから!! 褒められただけでもう……!!」
「……俺のキスは、受け入れられない?」
 薄く笑んだケイに、スズナの顔の温度が上がる。
 もはや他の生徒はその笑みに誑かされて、夢見心地だ。
 長く形のいい指が顔を真っ赤にして硬直したスズナの顎をそっと捕まえる。
 ……少年の行く末が心配されるが、その心配をする者はここに居ない。
 不幸なことだ。もっとも、本人はそんなことさえ幸せに代わるんだろうけれども。
 ケイは硬直したままのスズナの頬に軽く唇を当て、それをじっと見ていたメイにも頬にキスをする。
 漆黒の髪がさらりと揺れ、メイの頬をくすぐる。
 その二人の、なんと艶やかなこと。一気に教室の温度が最高潮を達した。

「……きゃぁぁあああああっっ!!!!vv」

 とても少年とは思えない叫びが響き、ボーイソプラノの声が一致団結したように教室を満たした。
 何事かと隣の教室から授業をしていた教師まで来る始末だ。
 その教師に謝り、メイとケイがもう少し音量を下げろと苦笑した。
 結局その後教室の熱気は冷めることなく、授業の終わりを告げるチャイムが微かに聞こえたのを早々に、二人は聞こえているのかわからない生徒たちに授業を終わると声をかけ、出て行く。
 全ては、メイの狙ったとおりに事は進んだのだった。









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紗奈様、111555Hitおめでとうございます!!
いかがでしたでしょうか?
ちゃんとリクエストにお答えできているでしょうか?(汗)
私ばっかり楽しんだような気がしてなりません……
リクエストをありがとうございました!!

このようなものでよろしければ、
どうぞお納めくださいませvv

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 あぁあ!!!本当に私が出演しちゃいましたw
 嬉しすぎて転げ周り、飛び回っていました。
 頭ナデナデしてもらっちゃったよw
 はぅ!だ、大好きな先生方のキスが私の頬に・・・!!!w
 あまりにも嬉しすぎて、ついホームページを作ってしまいました。
 (↑初めての試みなので、徹夜にて行わせて頂きました)
 ほ、本当にありがとうございます、神原 紅獅さま。

 えぇと、私の心を表すようにピンク色にしましたw