いつもとは違うことをしようか。
ねだるのは何も……お前からってことはないんだから。





狡猾







 シカマルはいつも、寝るときだけその髪を解く。
 肩先まで伸びた、綺麗な黒髪。
 風に揺れる様に、いつも見惚れてしまう。
 綺麗な髪。
 もっとずっと見ていたい自分と、心の思うままに触りたい自分が葛藤する。
 髪に見惚れ。
 横顔に見惚れ。
 でもその髪に触りたい。
 横顔に触りたい。
 視線をこちらに向けて欲しい。
 その漆黒の瞳で、見てもらいたい。
 いつも。
 いつも……その視線が自分に向かっていればいいのに。
 ずっとこっちを見ていればいいのに。
 それが叶わないなら……―――
 誰もその漆黒の瞳に映さないで。
 誰も、映さないで?
 こんなにお前に見惚れてる自分が居るのに。
 お前の目が他の誰かを見てるのは、気に食わない。



「……シカマル?」
 とうとうナルトが我慢出来ずに呼びかける。
 うつらうつらと、半眼を閉じていた漆黒の瞳がナルトを捉える。
 綺麗な目。
 なぁ、その目今抉り取ったら困る?
 永久保存して、大切にするから。
 死ぬまで、大切に、大事にするから。
 なぁ、困る?
「別段困んねーよ。これからの任務がめんどくせーけど……」
「あ、そっか。任務の時は困るよなー……って、俺、今口に出してた?」
「出してた」
「……まあ、いいや。変なこと言ってねーし」
「目を抉るってのはお前にとって変なことじゃねーのかよ」
「変じゃないじゃん」
「……あ、そ」
 ふい、と目がそらされる。
 こいつの目って、興味がなくなるとすぐにそらされちゃうんだよな。
 薄情な目だよな……。
「……お前はさっきから、めんどくせーことをぶつぶつ言ってんだ?」
「だってお前、俺が何か言ってないと目そらすし、寝るだろ?」
「俺らの睡眠時間を考えれば、俺が今眠ろうとしてんのは正常なことだと思うんだがな?」
「そりゃ、そうだけど」
 ホントに、薄情な目。
 もうどこか遠くを見てる。
 どこか遠く……空を見上げてる。
「……なぁ、空には何が見えてんの?」
 お前が見てる空は、いったい何が見えてるの?
 薄情なその目に映る、空は。
「んー?」
「だから、空には何が見えてんのって聞いてんだよ」
「空ね……」
 ぼんやりと見上げて、ぼんやりと言う。
 のんびりした奴だ。
 頭がずば抜けていいかと思えば、こんな風に空を見上げて何を考えているか判らないときがある。
 ……どっちにしても、わからないということではあるけど。
 普段何を考えて生きてるんだろうと思って、当然だろ?
「まあ、何考えてるって程考えてるわけでもねーぜ? 雲はいいよなぁ、とか空が青いのは微小な水分子に波長の短い青色が分散して青く見えるんだよな、とか」
「……は?」
「雲は粒子が大きいから七色を拡散し光の配合で白く見えるんだとよ」
 ……結論。
 こいつの考えてることはやっぱわからん。
 大体、俺は何を見てるんだ、って聞いただけなのに。
 誰が何で空は青いのか、雲は白いのか、なんて聞いてないし。
「……ふーん。とりあえず、お前がわけわからんこと考えてるのはわかった」
「どういう納得だ?」
 だってそうだろ?
 何考えてるのか、全然わかんねー。
 納得も何も、そんな結論しか出せないんだよ!!
 嫌ならもうちょっとマシな考え方しろよ。
「マシな、ねぇ……めんどくせー」
「言うと思った……」
 お前のマシって何?
 わかんない。
 なぁ、その漆黒の目で、お前は何を見て、何を感じてる?
 何を考えて、そんなに空を見るんだ?
「そんなに俺の見てるもの、聞きたいわけ?」
 面倒そうな顔。
 でも、こっちを向いた。
 見ててくれよ、ずっと。
 お前の全部がわかるまで、俺を見てて。
「人は四つの窓を持つ……一つは自分も他人も知ってる自分。一つは自分が知っていて、他人が知らない自分。一つは自分が知らなくて他人が知っている自分。最後は自分も他人も知らない自分。お前はそれら全部の俺が知りたいのか?」
「うん。だってさ、お前ちっとも俺を見ててくれないし。何を見てるんだ、って聞いてもはぐらかすし」
「はぐらかされた、とは気付いてるわけか」
「当たり前だろ。それくらいわかるっての」
「何を見てるのか、ねぇ……」
 また黙る。
 俺を見て、空を見上げて、風に揺れる髪をうっとうしそうに結び始める。
 とはいっても、全部を結ぶわけじゃない。
 顔にかかる部分の前髪とかを後ろにやって、下の髪はそのままに上のほうで軽く結ぶだけ。
 切れ長の目が、露になる。
 シャープな横顔なのに。
 かっこいい横顔……なのに。
 お前はいつも、ぼんやりした顔をするから、せっかくの美形が台無しだ。
 ……まあ、その片鱗をうかがわせるこういう顔は、俺にしか見せてくれないし。
 それは嬉しいけど。
「……こんな顔のどこがかっこいいっつーわけ? 親父に似てて、ムカつく」
「お前の親父さん、渋くてかっこいいじゃねーか!!」
「……親父ファンか?」
 ちげーよ!!
 …とは言い切れない俺がいて、なんだか決まりが悪い。
 だけど、俺はお前の顔のほうが好きだぜ?
 どこが、とか、そんな詳しくは言えないけど。
 ……どこがいいんだろ?
 漆黒の目……かなぁ?
 お前の親父さんは愛妻家の恐妻家。
 奥さんしか見てないし。
 お前の目は、まだ誰も見てない。
 その真っ黒な目は……まだ誰も。
「そうか? 俺は見てるけどな。いつも……いつでも。ずっと。恋焦がれてるみたいに……ただ一つを」
 なんだと!?
 誰だ……誰がお前の目に入ってるって!?
「……この世界でただ一つの色……。ただ一つ、誰にも手の届かない色。俺はいつでも、思ってる」
 ……ムカつく。
 こいつに手に届かないって言わせるやつはどいつだ!?
「気付かないんだよなぁ……気付かない相手に恋焦がれるなんて、俺も大概めんどくせーと思うよ」
 ……ホントに、そいつのことが好きなんだな。
 俺じゃなく?
 いつも俺はお前を見てるのに……お前は、見てないんだ?
 その漆黒の目は……いつも遠くを見てる。
 遠く……空を。
 そんなに……好きなんだ?
「好きだな。めんどくせーって、何度も思うけど。何度も何度も思うけど……やっぱり俺は、見てる」
 遠くを見つめる、細められた目。
 そのままどこかに行っちまいそうだな。
 ……俺の傍には、居てくれないのか?
「……そんなに、お前は知りたいのかよ?」
 知りたいに決まってる。
 迷うことなく、そう言ったナルトに、シカマルはふっと笑う。
「なら……俺を驚かせられたら、教えてやってもいいな」
「お前を……驚かせる?」
「お前にとっちゃ、ただの悪戯の延長だ。俺を心底驚かせてみろよ。そうしたら……」
 ふっと笑って、ナルトに視線を向けた。
「そうしたら、お前の知らない俺の一面を一つ、教えてやる」
「一つ?」
「今は一つだけ。どうせこれから知ってくだろ?」
 ……それは、確かに。
 って、これから……って事は、お前を全部知るまで俺の傍に居てくれんだ?
「居てやるよ。知った後で……お前がどう思うかは、それはお前の問題だ。少なくとも俺は、めんどくせーことばっかりだけど、お前の傍にいてもいいと思ってるんだぜ?」
 ……そうなのか。
 なんだ、そうか。
 それなら心配ない。
 お前がどんな側面を持っていようが、俺はお前を手離さないって事は判るし。
「……そりゃ、ありがとさん」
 どういたしまして、てか?
 お前を見出しのは俺。
 俺を見つけたのはお前。
 今更手離してどうすんの。
 孤独に還るだけなのに。
 そしたら、俺気が狂って力の限り世界滅ぼしちゃうかも。
「やめとけ。お前が壊そうと決意したら、誰にも止めらんねーんだから」
 止められるのは、お前だけ。
 お前は俺の鎖。
 俺をしっかりと大地につなぎとめる、鎖。
「……お前は、空に帰りたがるから。抱きしめてないと今にも飛んでっちまいそうで……怖い」
 怖い?
 お前が?
 お前ほど怖いって言葉も似合わない奴いないと思う。
「俺が死んだら、どこにでも飛んでいけばいい。いずれ空に還るなら。俺は……影の中で、お前の姿を目に焼き付けて、いつまでも見てればいい。夢を、繰り返せばいい」
 ……よくわかんねーけど。
 俺はたぶん、死んだら影に沈むよ。
 お前の色だもん。
 お前の目と同じ色の……漆黒の影の中に、沈むよ。
 その目の中に沈むなら、悪くない。
「……そーかよ。それも、まあいいな」
 照れた顔。
 お前でも照れることってあるんだな?
「そりゃ、俺だって人間だし」
 ふーん……。
 薄情な目。
 でも……いくらかは、俺の姿も映ってる?
 映ってるなら……それでもいい。
 少しでも映ってるなら、俺の存在を大きくしていくことも出来るから。
「……何でもいいから、知りたいんだったら俺を驚かせろって」
 じゃあ、そうだな。
 俺が普段やらないようなことだったら、お前も驚くかな?
 そう、例えば……
 ナルトの顔が近づいて、唇が触れる。
 掠めるように、小さなキス。
 かなり恥ずかしい……。
「……まず、俺の一面の一つ」
 え?
 シカマルの腕が上がって、きつく抱きすくめられる。
「教えてやるよ……けっこう心臓にキたから」
 耳元で囁かれた言葉に何かを考える前に。
 舐められた。
 そしてそれに驚く隙も与えずに、シカマルの唇は移動する。
 頬を掠め。
 鼻を軽く噛まれ。
 眉間に唇が触れ、瞼を舐められ。
 額にキス。
 こめかみにキス。
 その唇が降りていくときに、耳に吐息がかかる。
 ……熱い息。
 ぞくり、と背筋に何かが降りる。
 もはやナルトの頭はパニック状態。
 何をされてるのか、なんて……考えることも出来ない。
 唇が降りる。
 頬を再び掠めて。
 顎を舐められて。
 ……唇に触れ。
 吐息がかかる。
 味見をするように舐められて。
 触れる。
 角度を変えて、また触れる。
 そして。
 深く……唇が合わさる。
 見開いた視界に、シカマルの漆黒の目が妖しげに細められているのを見つける。
 思わずしがみついたシカマルの胸に手を当てると。
 心音が早かった。
 唇を軽く噛まれて、離れていく。
 呆気に取られて離れた……とは言っても至近距離だけれども、その顔をマジマジと見つめてしまう。
 一面……
 これが一面?
 心臓に悪い……。
「俺が見てるのは、お前。お前の色」
 一瞬何のことかと首を傾げそうになって、シカマルが見てるものだと気付いた。
 俺の、色?
「俺が恋焦がれるように、いつもずっと……いつでも見てるのは、お前の色。お前の髪みたいな太陽と、お前の目みたいな蒼い空」
 そう、なんだ?
「手に届かない色だと思っても……見ちまう。どれだけ考えても、手に届くはずないって思うのに……めんどくせーって、思うのに」
「俺を、見てるのか? その目で?」
 その、いつもどこか遠くにそらされる、薄情な目で。
 ……俺だけを?
「お前だけ。お前の色だけ、見てる。それ以外の色なんか……もう忘れちまったよ」
 そっか……。
 お前の目に、俺はこれ以上ないくらいの面積で、存在してるんだ?
「それ以外に何を映せって? めんどくせー……」
 漆黒の髪が、風に揺れる。
 瞳が、ナルトを見つめる。
「俺が考える、マシなこと。……判っただろ?」
 判った。
 これ以上ないくらいに。
 これ以上……何を判れって言えるのか、わからないくらいに。
 そっか……でもやっぱその目は薄情だよ。
 俺以外、映さないって言うんだから。
 薄情な目。
 ……でも、好き。
 狡猾な人。
 薄情な目で視線をそらして、俺の好奇心を煽がせて。
 狡猾に心をつかんでいくんだから。
 今度から、このそらされた視線も好きになってやるよ。
 お前が見てるのが、俺だって判ったから。
「……いつまでこの体制で居るんだ?」
「いつまででも」
「……あっそ。めんどくせー奴だよ……」
「そのめんどくせーの中に、褒め言葉はあるのか?」
「さぁ、な。それはまた今度」
 笑って。
 囁いた誘いの言葉。



 それは、ある晴れた日のこと。







甘い……
甘すぎる……恥ずかしい!!
思えばナルトで初めての甘々小説って奴じゃない?(おい)
ともかく、二周年記念シカナルフリー小説ですvv
皆様いつもありがとうございますvv

こんなものでよろしければ
どうぞお納めくださいませvv



素敵な物を頂きましたw
フリーだったので、下さい!と叫んで(笑)
甘くて微笑ましい二人だわw
神原さま、ありがとうございました!