「明けましておめでとー!」

 ていやっ! とばかりに夏希が葵の背中に飛びかかる。
 首に回すように腕を絡ませ、全体重を葵へとかける。
 驚きの声を上げながら倒れるのを何とか回避した葵は首にかかった腕を放そうともがきながら。

「止めろよ、いちご!」

 叫ぶそれを全く気にせず、葵が夏希の体重で少し体勢を落としたため視線が同じ高さになった梓に微笑みかける。

「ハッピーニューイヤーですよ、梓ちゃん」
「そうね、おめでとう」

 黄色い振袖を着た夏希に梓は笑い返す。
 葵が夏希を振り落とそうと動く。
 首を振ったり、腕を外そうとしたり……夏希は振り回されるのが楽しいらしく、喜びの声を上げている。
 徐々に絞まりつつある腕に無理矢理振り切ろうとしていた葵は夏希が着物を着ていることにようやく気付いた。
 背中から飛びかかられたため、全く気付いてなかったのだ。

「いちご、着物でこういうことすんな!」

 はだけるだろ! と怒る。
夏希の足が地面に着くようにして、離すように腕を叩いた。
 一通り楽しんだ後なので、夏希は素直に葵の背中から降りたのだ。

「まぁ、着崩れたなら私が直すわよ」
「そりゃオレだって着付けができないわけじゃないが……」

 そういう問題でも無いだろ、と葵は呆れる。

「まぁまぁ! あけおめ」

 騒ぐ三人に苦笑しながら近付いてきた聡が間に入る。

「あー、聡おめでと」
「おめでとう」
「あけおめ、聡」

 初詣に行くために待ち合わせしていたメンバーが集まり、早速移動し始めた。
 振袖を着てきた女性陣のため、歩みはゆったりとしている。

「今年は良い年だといいな〜」
「なるようにしかならないんじゃないかしら?」
「梓……お前はな……」
「何? 私に文句でもあるの?」
「……いや、いい。今年もよろしく」
「最初からそう言えば良いのよ」

 簡単に撃退される聡に、いつものことだと葵と夏希が笑う。
 なんだかんだと仲が良い幼馴染たちはきゃらきゃらと笑いながら神社へと向かっていった。
 これは、ここ数年の恒例行事である。
 冬休みの間にも会いたいからと言いだした夏希の希望で始まった初詣。
 今年も騒がしくて楽しい一年の始まりを告げていた。

「今年は凶じゃないと良いですね〜」
「うっせ! オレの運吸い取ってんじゃねーだろーな?」
「あらあら」

 何無理なことを言っているのか、と梓は呆れる。

「何か最近運勢悪い気がするんだよなぁ……」
「「「そんなの前からでしょ?」」」
「うっせー!!」

 真面目な顔でぼやいた聡に三人が異口同音で突っ込む。
 流石に多少は自覚していたのか、何も言えず悪態を吐くだけの聡に、やっぱり自分でもそう思っていたのか……と三人が笑う。

「それにしても混んでますねぇ」
「年中行事の一つだし、仕方ねぇんじゃね?」
「宗教的意味合いなんて、あまり残ってないもんな」
「日本人らしくて良いじゃないの」
「それはそうかもしれないけど……」

 でも、だけど、といくつも言葉を濁すように重ねて。

「やっぱり多いですよー!」

 人が多すぎる! と叫ぶ夏希に、クスクスと梓は笑い返す。

「いちご、はぐれるなよ?」

 四人の中で一番小さい夏希に葵は言う。
 一度この人混みではぐれてしまった過去があり、そのために人が多すぎると文句を言っていることも分かりきった上で言う葵に、夏希はぐるるるる…と睨み付ける。

「ちっこくて可愛いんだけどな」

 これくらいの年齢なら、それが普通だろうと聡が慰めるように夏希の頭をポンポンと叩く。

「がぅ! 叩くな! 減る!! 身長が減る!」

 そんなことにはなるわけが無いのだが、その分身長が減りそうだと思うほどには押しつけるような叩き方だったのだ。

「ほらほら、騒いでる内にもうすぐよ?」

 鳥居の辺りまで並んでいた参拝列が、残り数人にまでなっていた。
 漫才か何かのように楽しい会話を楽しんでいる内に順番が回ってきたことに周りで並んでいた人たちが慌てて財布に手を伸ばす。
 ただ並ぶだけは暇である。
 こういう時は連れと会話を交わすか周りの観察をするしか無い。
 そうして待っている間に近くでこんな楽しい会話を交わしている子供たちがいたら、微笑ましく思い見てしまうのは仕方ないだろう。

 二拝二拍手一拝。
 横一列に並んだ葵、梓、夏希、聡が揃って鈴を鳴らす。
 真剣にお祈りをする彼らを微笑ましそうに見ていた周りの人たちが見守る。

「んじゃー! おみくじ引くか!」

 参拝が終わると、聡がおみくじを引きに社務所に行こうと声を上げる。
 異存は無かったので、四人は社務所へ足を向ける。

「なぁ、何お願いした?」
「そんなの言えるわけ無いですよ!」

 お願い事は口にしてしまったら叶わないって言いますです! と夏希がわかりやすく頬を膨らませて怒っている。
 梓は興味が無いようで、平然と二人を見ている。

「そんなわけねーだろ? 葵は?」
「ん〜、平穏無事な生活が送れますように、って……」
「無病息災、家内安全」

 つまりはそういうことね、と葵のお願い事を一言で断ずる。
 そんな言い方をしたら身も蓋もないとぼやきながらも、その通りだと葵は頷く。

「つまんねーのな」
「つまんなくない! おじさんの後継者に選ばれるとかマジ勘弁して欲しい」
「あぁ……」

 それを原因としたお願い事だとしたら、正しいだろうと夏希も聡も頷く。

「いいじゃない。多少波風あった方が楽しい生活を送れるわよ?」
「梓は他人事だと思って……」
「えぇ、所詮他人事だもの」

 きっぱりと言い切る梓に葵は頭を抱える。
 ひでぇ、と呟きながら。

「おみくじに期待をかけようぜ!」
「そ、そうですよ! おみくじによくありますよね」

 願事の文言があったはずだ、と夏希が言い、おみくじにかけるか! と葵は気合いを入れ直した。


 初詣の人出を予想した社務所は、特設でおみくじを引ける場所を増設していた。
 増設された方には花の形に畳んだおみくじなどもあり、そちらの方が良いと人は集まっている。
 四人は空いている方へ、と社務所の列に並んだ。

「絵馬、かぁ…」

 絵馬やお守りを買い求める人の波の中、おみくじだけを目当てにこちらに並んでいる人は少ない。

「何? 絵馬を書くのかしら?」
「いや。絵馬を書く程の願い事って無いし」

 まだ受験生でも無いし、切羽詰まっている訳でもないからな、と苦笑した葵が言う。
 それならそれで良いけれど。

「絵馬くらい奉納しないと叶わないかもしれないわよ?」

 神頼みにしても、それくらいはしておかないと無理じゃないだろうか……?

「まぁ、今日の所はいいよ……」

 もっと差し迫った頃、中学を卒業する時期などには、と葵は言う。
 簡単にイタリアに連れ去られるつもりは無いが、まだ今は大丈夫だろう。
 順番が回ってきたおみくじを引く。
 四人共がおみくじを引き、その内容をゆっくりと読もうと社務所から離れる。
 おみくじを縛り付ける木の傍だが、すでにおみくじで埋め尽くされた木だったため、それ以外の場所に人は集まっている。

「えいっ!」

 気合いを入れた声を共に開いたおみくじの文言を読む。

「大吉――」
「なっ! ずりぃ!!」
「私も大吉よ?」
「私は吉ですね……」

 末吉だった聡が反射で叫んでいる。
 だが、葵はそれよりその次の文言が気になった。

「願事、叶わぬ…………」
「うわっ、一言……」
「あちゃ〜」

 大吉であっただけあり、それ以外の場所はいいことばかりが連ねられているが、何故願事だけ……と葵は肩を落とした。
 末吉であったが中身は良いことが書かれていたと確認した聡が葵の肩を叩く。
 落ち込むなよ! と慰めるかのような行動だが、内容が良かったのが見て取れた葵からしたら憎たらしいもいいところだ。

「結んでくる!」

 こんなの厄除けしないとやってられない。
 そんな葵にくすくす笑いながら自分たちのおみくじの内容を読み、必要ならばおみくじを括りに行く。
 括ったのは葵と梓の兄妹のみであった。

「お前は括らなくても良かっただろ……」
「だって、邪魔だもの」

 手元にずっと置いておくのも邪魔になるし、扱いに困るからと括る梓は双子とはいえ変わっているなぁ、と葵は再認識した。
 それもそうですね、と梓の言葉に説得された夏希も括りに行き、聡だけが持ち帰った。

「それじゃ、年中行事も終わりましたし、解散しますか」
「だなぁ。学校始まるまでにもう一回くらい遊ぶだろ?」

 四人で遊びたい! と言い出すのは夏希だから、と三人の視線が集まる。
 それにコホンッとわざとらしく咳を吐き、一拍おいてから頷いた。

「勿論です! 今度はうちに遊びに来て下さい!」

 四人で集まろう、と夏希が言い、三人がそれに頷き、そしてまた今度、と軽く手を振りそれぞれ帰宅するのだった。




 帰宅した双子を両親が出迎えた。
 正月特番など、面白い番組は一つとしてない、などと言いながらも点いたテレビの電源。
 両親は、つまらなさそうに見ていたらしい。
 仕事の合間を縫って作られたおせちのお重。
 新婚からはかなりの年月が経っているだろうに未だに甘い雰囲気を漂わす両親は、居間で仲良く食べていたようだ。
 いつものこととそこには突っ込まず、防寒着を脱いでいく。

「お帰り、楽しかった?」
「うん」
「おせち、食べるかい?」
「えぇ!」

 帰宅を迎えてくれる母と父に笑顔で駆け寄り、席へと着く。
 父が作成したおせちは美味しい。
 母が焼いてくれた餅も美味しい。
 お正月らしい食事に笑みが止まらない。


 今年も良い年始を迎えられたことに家族全員、笑顔が絶えない雲雀家だった。





ってことで、あけおめです。
転生後シリーズ、その中の子供の葵君話です!
一年前の正月に間に合わなかったお話の一つですね。
いや、うまく書けなくて(苦笑)
一応、1月中に書きあげて置いておいたものなんですが、HTMLにしていなかったために時間がかかりました・・・

なにはともあれ。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

2012/1/3 更新
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