「うっ、う〜ん」
朝、日の出と共に起きたまちはすぐに違和感を覚えた。
(えっ!この窓…私の家じゃない!しかも、服も変えられている!?)
それから一分もたたずに頭が回り始め、やっと昨日のことを思い出した。
(そうだった。あの時見知らぬ人に私を狙わないと判っただけですぐに無理を通すように頼んだんだ)
そう思うと、なぜか急にあの人をまた見たくなった。
まず体を起こし、辺りを見回す。すると、戸が一つあったので、そこを開けることにした。
その先は台所だ。
その中の方にある机にはいくつかの料理が並べており、今も知らない女性が運んでいる。
今持っているのを置き、その女性がふと顔を上げると目が合ってしまった。
「あらまちちゃん。起きていたの?」
思わず身構える。
初めて会ったはずなのに、名前を知っているからだ。
「わっ!そんな、私は戦う気はないよ。あたいは彌杜みと。あんたを運んだ世都はあたいの夫さ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「よせやい!あたいは世都を手伝っただけさ。ついでに言うと、そんなかしこまらなくてもいいよ」
「分かり…分かった」
「わはは。段々馴れればいいさ。さて、いきなりだが世都を起こしてくれないか。ご飯は大勢の方がうまいんでね」
「はい」
そうしたら、彌杜さんは世都さんが眠っている部屋を口頭で伝え、かまどへと向かった。
おそらく、ご飯をよそうのだろう。
私が言われた所へ行くと、「ぐ〜」いびきをかいて熟睡している姿が見える。
(こんな人が忍者で大丈夫だろうか)
そう思いつつも、とりあえず起こし、三人で朝餉を取った。

「じゃあ、買い物に行こうか」
食べ終わり、彌杜さんが家事の続きをやっている時、世都さんが予め決められていたかのように言い出した。
「えっ!ほかげ様の所へは「もう行ったよ。そして三日間の滞在許可は貰ったよ。それから、『会いたいから今日の午後に来てくれ』だってよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「頭を下げなくてもいいよ。だから、今のうちにせめて服だけでも買いに行こう」
二つ返事をしようとした瞬間、とあることを思い出した。
「その前に、二つほど質問をしてもいいですか?」
「ん?別にいいけど」
「これから日向ひなたを通りますか?」
「そりゃあ、外を歩くからね」
「もう一つ。恐仁くに一族を知っていますか?」
「ああ、結構有名だからね。確か夜と体術が得意な一族で、大半は暗部に入っているだろうとの噂だ。
ところで、一体何の関係があるの?」
最後の切り返しは耳に入らなかった。
(やっぱり、私のことを知らないんだ)
そう思うと、嬉しい半面、冷汗ものだった。
「ねぇ!どうしてこんなこと聞いたの?」
今のでやっと質問をしていることに気づく。
「あっ、ごめんなさい。少し考え事をしていました。とりあえず、質問の返答はほかげ様の前で言います。ただ、大切なことなので今すぐ言わないといけないことがあります」
すると、世都さんの雰囲気が一瞬で変わった。
「それは何かい?」
「実は私、日光の下で長時間いられないのです」
すると、少し驚いた表情をしてからすぐに戻る。
「へ〜。一風変わった体質だねぇ。で、長時間がどれぐらいか解るかい?」
「いえ、きちんとは知りませんが、十五分もいられないかと」
「なら大丈夫だな。念のため速く移動したいからまたおんぶして行こうか」
嘘をついているかもという不安はあるけど、今までの信頼と行き先の興味がそれを上回る。
「…はい」
乗っかるとすぐに出発した。