猛スピードで走りだして十分もたたない内に急に日陰で止まり、おろされた。
周囲には何もなく、あるとしたら一本の巨大な木と小さな崖だけだ。
「何所ですか?」
「まあ、見てごらん」
そう言うと世都さんは崖の前に立ち、足を強く3回踏み鳴らしてから少し印を結ぶ。
すると、崖が少しずつ動き、人一人が入られるぐらいの大きさの穴が出現した。
こんな仕掛けがあるとは…と思わず驚いていると、世都さん私の方を向き、悪戯に成功した子供の顔をする。
「さて、すぐに閉まるから急いで入ろうか」
そう催促されたので、手を繋いで世都さんからさっさと中へと行く。
入り終えると言われた通りすぐに穴は閉じてしまった。

中は真っ暗かと思いきや、鉱物の光でなのか早朝ぐらいの明るさを保っていた。
少し歩くと一人待ち構えていた。
そして、その人のそばへ行くと、世都さんが立ち止まり名前を告げる。
「きちんとリストに載っています。あちらの方はお連れさんでよろしいですか?」
「はい」
「では、滞在時間は半日です。…ところで世都」
「何ですか?」
「この子に此処のルールを教えたか?」
「べ、別に服を買う為だけだから良いです」
「確かに、こんな時間だと他所は開いているところは少ないし、ここは質が良いからな。けど、規則ぐらいは教えておきなさいよ」
「はいはい」「はいは一回!」
「はい」
そんな談話をしてからさらに奥のもう少し明るい方へ向い、歩き出す。

そこは、商店街みたいな所だった。
人はまだまだらだが、険悪な雰囲気のところはなく、治安は良さそうだ。
そんな姿を見つつ、目的地まで二人で雑談をすることにした。
「あの人は誰ですか?」
「おれの担当上忍。今でも尊敬している。あの人は強く、厳しく、そしてとても優しいから」
「良い人なのですね」
「ああ、ただ、優しすぎたかな。敵のことも思いやるから」
そう言うとどこか遠い眼をした。きっと過去のことを思い出しているのだろう。
とりあえず、雰囲気を変えることにした。
「ところで、その人が言っていた“此処のルール”って何ですか?」
「ああそうだったね。今回は関係ないと思うけど、一応言っておくね」
と、丁寧に教えてくれた。

・特別上忍以上の人しか基本的に入ることができず、例外として、上忍以上の人に連れられた人も一人だけならよい。
・滞在は24時間。例外で来た人と連れてきた人はその半分の12時間。どちらでも申請すれば延長は可能。
・忍術・体術・幻術等は一部地域を除いて禁止。そこでも、人を殺めるのは禁止。
・但し、規則を破った者の動きを止める為なら使用可能。

特別なルールはそれぐらいらしい。
「へ〜。強い人しか入れないのに戦いは基本的に禁止だなんて一風変わっていますね」
「けど、暗部とかの中にはまちちゃんみたいに自らの身を護る為に戦わないといけなかった人もいるらしいんだ」
「私もそうなるのかな?」
「実力さえあればね。年や性別は関係ないよ」
と話をしている内に目的地へとついた。

そこは、値段は張るものの、オーダーメイドの服を短時間で作ってくれるので密かに人気があるらしい。
頼むと早速採寸と要望を聞き、それから2時間も掛からずに上下の服と下着、上着を作ってもらい、その場で着替えることにした。
すると、とてもぴったしで、改めてお礼を言い退出した。それからはゆっくり家へ戻り、三人で彌杜さんが作ってくれたもので昼餉をいただいた。
「さて、そろそろ火影様の所へ向かおうと思うけど、用意はいい?」
伝えたいと思うことをもう一回頭の中で確認する。それからゆっくり首を肯く。
「じゃあ行こうか」と差し出した手を握り、出発した。