「異世界へ行こう!」
ナル達は定期的に異世界へ行くように決めてあるが、今日は特別な理由で予め決めていた日だ。
「そう焦らせないでよナル。ちゃんと持ち物を用意した?」
ここで言う持ち物は忍具のことだ。
普段の任務では必要が無い物、例えば風魔手裏剣みたいに大きい物はさすがに任務の時は持っていってない。
だが、移動先は何時、何が必要となるのかが予測もできないので、外観はなるべく変化がないようにしつつ、任務の時よりも大量の道具を携えて行くのだ。
「もちろん持ったってばよ!」「だとしても、俺たちはまだだ。少し待ってろ!」
は〜いと返事したのにナルはそわそわしている。
任務が今日から一週間の休みで、普段行く似たような世界ではなく、全然知らない世界へ行こうと準備していたのだから仕方ない。
その気持ちを汲み、一分後には二人も用意をし終える。
「さて、やるってばよ」と一番チャクラがあるナルが印を結びだした。

そうしてついた先は…
「何だってば!?これは」「見慣れないが…花?」
「ええ、花だわ。似たようなものは本で見たことあると思うけれど…」
そう言っていると、その花畑の向こうから日傘をさした少女がやってきた。
「私の向日葵畑の前で何をしているのかしら?」
どうやら、この畑の持ち主のようだ。
「そうよ!向日葵だわ!けど、こんなにも紅くはないはずだわ」
「淡紅色のはずの桜が紅いのは紅い血を糧としているから。私の向日葵も例外ではないわ」
それを聞いて、三人はぞっとした。
別に、目の前の子が大量の人を殺したことがあるからではない。
それなら、同い年で暗部になっている人を十人も見ているから大丈夫だ。
そうではなく、大蛇丸みたいに殺気を隠そうとしない。それが恐ろしいのだ。
「お、お前は誰だ!」殺気で少し声が怖がっている。
「私?私は風見幽香かざみゆうか。あなたたちの名前は?」
ここで、三人が殺気を忘れ素早く反応した。
「風見って、シオンの血縁だってば?」
すると、幽香が考えるしぐさをして「シオン?聞いたことないわね」と言いはなつ。
三人ががっかりしている中、「で、名前を教えてくれない?」と殺気を強める。
幽香としては変な事を聞かれたので少し苛立っているようだ。
「う、うずまきナルト」「う、うちはサスケ」「は、春野サクラ」
「フフッ。あなた達、私と遊ばない?」
「ルールは何だってば」「私が飽きるまで互いに攻撃し続ける。簡単でしょ?」
「ご遠慮します」サクがそう拒もうとする。
しかし、「あら、私の誘いを断るつもり?」と殺気で脅迫をしてきた。この強さは大蛇丸の比ではない。
二人は動けず、サスだけがなんとか縦に肯く。
「良かった。なら早速やりましょう」そう言って、やっと解放してくれた。

三人はまず大きく呼吸をしてから集まる。
「安心して。私からはすぐには攻撃しないから」と付け加えてきたからだ。
「とりあえず、どうするってば?」
「ゆっくり戦って、時間を稼ぎましょ。万が一隙が生じれば、逃げることが出来るかもしれないから」
「なら、まず相手の行動を探ろう。互いに知らない相手なら、どれだけ情報を入手できるのかが響く」 「「おう!(ええ)」」
三人が幽香の方を向く。
「作戦は決まったかしら?」「ああ、行くってばよ!」
ナルがとりあえず手裏剣を投げる。
「相殺するほどでもないわ」幽香が少し動くと、手裏剣は少しかすって通過していった。
その間に幽香の斜め後ろへ移動したサスとサクが、同時にまた手裏剣を投げる。
しかし、この攻撃も少し動いただけでよけられてしまう。
今度は三人が手裏剣とクナイを投げて、前後左右から攻撃してみた。
それを確認した幽香は差していた日傘を閉じると、その先を地面に突けた。
すると、急に砂煙が立ち上がり、視界を遮った。
十秒もたたない内に晴れた先にあったのは、三人が投げた物が刺さった緑の棒のみだ。
その正体も、上を見るとすぐに解る。サスの身長の二倍はあろうかという高さの向日葵だ。
「さて、暇だしそろそろ反撃するわ」
向日葵の花の隣に乗っていた幽香がそう言うと、巨大な向日葵の花が蕾になり、何かを出した。
急に猛スピードで飛んできたのでナルは頭を手で庇うぐらいしかできなかった。
ナルの左手が痛むが、動かして確認すると、
「花の中央にあったやつだってばよ」「ナル〜、それは種よ〜!」
あまりのことに思わず声で伝えたサク。だが、幽香に目をつけられてしまう。
「そのとおりよ」
そう言って、早速蕾をサクの方へと向けさせる。だが、種を噴出させる前に倒れ出してしまった。
ナルへの攻撃を確認してすぐにサスが向日葵に近付き、腰に差してあった刀で茎を一刀両断したのだ。
向日葵はゆっくりと倒れ、幽香は乗っている内にまた差した日傘でもっとゆっくり下りてゆく。
その光景に疑問を抱きつつも、三人は飛び道具で攻撃する。牽制の時とはスピードも違う。
向こうはそれを見ると、服のポケットから一枚の札を取り出した。
攻撃が当たる!と三人とも確信していたら、
「花符『幻想郷の開花』発動」
幽香からいきなり百はあろうかという数の弾を発射した。
その弾でこちらの飛び道具をすべて打ち消し、さらに反撃までしてくる。
あまりのことにこれを避けることしか考えられなかった。
その内に幽香は悠々と着地をし終えていた。
「さて、ほんの少し本気を出そうかしら」

そこからはほんの数秒だった。
いきなりナルへ傘を向けるとそこから大きい光線を放つ。
それを止めさせようとサスが近づき、サクが後援する。
その姿を確認した幽香はあっさりと光線を止めて、向かってくるサスを傘で突き、ナルへと投げ捨てる。
サクの術を簡単にかわしてから一気に距離を詰めると、二人の方へと投げ飛ばす。
「これで終わりね」
そう言って放つ攻撃はナルへ当てたものよりも巨大な光線だ。
三人には避ける手段が浮かばず、攻撃を待ち構えるしかなかった。
しかし、急に不思議な蝶が数羽やってきて、光線と衝突。相殺となった。
「何であなたがこんなところへ、しかも、妖花ヨウカ結界を破って来るかしら?」
幽香が話しかけた方を向くと、そこには御霊みたまを何体か引き連れた着物姿の女性がいる。
「蝶を集わせる者が花の下へと行く。何一つおかしく無いはずよ」
その女性の言葉で真剣な雰囲気が和らいでいく。
「なら、なぜ私の攻撃を殺したのかしら」
「この子達がここで死なれると困るの。私も閻魔様も」
「それは面白そうね」とその女性への目線はずらさずに、傘の先をナル達へと向ける。
「なら、私の親友でも呼ぼうかしら」好奇心が出ている幽香へやんわりと脅迫した。
少しの間、沈黙が場を制す…
「…分かったわ。幽霊とスキマと狐がいたら殺すことは出来ないから、今回は諦めるわ」
そう言い放ち、幽香は向日葵畑の中へと消えていった。

それを見た三人は腰が抜け、深呼吸するので精一杯だった。それほどまで精神的にきつかったのだろう。
幽香を退却させてくれた女性がゆっくりと三人へ近づき、声をかける。
「あなた達、死んではいないかしら」
「はい、ありがとうございます」サクが代表として返事をして、立ち上がろうとする。
「その姿勢のままでいいわ。ところであなた達、元いた世界へ戻れるのかしら?」
「ああ、立つことが出来るようになれば、な」
「それは良かった。なら、出来るだけすぐに帰りなさい」
「どうしてだってばよ!」ナルが勢いで立つ。しかし、足に力が入らずすぐに倒れてしまった。
「この世界で一番困るのは、無知で好奇心旺盛、そしてある程度強い人間。ちょうどあなた達みたいにね」
今までの声とは違い、どこか鋭い印象を与える。
「もし断ったらどうするってば?」
「そんなの簡単よ。帰りたいと強く思わせるだけ」そう返事して、何処からか札を出した。
「分かりました。すぐに帰ります」
チャクラはまだ充分あるものの、ナルとサスは体の蓄積ダメージが大きく、それを見逃すような相手でもない。
そんな状況で大量の弾を対処できないとサクは判断した。
二人から反対の声が上がらないのも、各々で今は絶対勝てないと感じたからだろう。
「そうしてくれると助かるわ」そう言うと、いつの間にか札の代わりに手にした扇子を開いている。
その後、そう長くはないが回復するぐらいまで待ってから、三人が集まりサスが印を結ぶ。
「あの時は本当に助かったってばよ!」「あれはエゴイズム。私の為よ。またね」
これに対する返事の前にサスが結び終え、元の世界へと戻った。

「ふう、疲れたってばよ」「ああ」
「そんなこと言ってないで、さっさと傷口を出して。治すわよ」
と、この中で一番怪我がなく、ただ一人掌仙術をを覚えているサクが治療を開始しだした。
ナルとサスは暇となり、つまらない話題をしている。その途中でふと思い出したのはサスだ。
「…なあ」「どうしたの(んだってば)?」
「あの女、遠回しにもう来るなと言ったよな?」
「ああ、そんな感じだってばよ」縦に大きく頷き強い肯定を表す。
「だが、『またね』と言っていた気がするが…気のせいか?」
一瞬この場が固まった。
印を結ぶのにある程度集中していたサスが聞こえたのを何もしていない二人が聞き逃すはずがない。
「…向こうから来るのか?」「ありえそうで怖いってば」
後日、本当に来るのだがそれは別の話にしよう。