「キョウちゃん、どうしたの?」

 綱吉は急に抱きついてきた幼馴染の姿に首を傾げた。

「……ツナ、好きだからね」
「オレも好きだよ? ……けど、急にどうしたの?」
「……なんか、嫌な予感がしたんだよ」
「? 嫌な予感?」
「うん。綱吉と離れ離れにされそうな……」
「大丈夫だよ、離れてもオレはキョウちゃんのこと好きだから」
「……うん」

 小さな子供二人が抱き合い、チュッと音を立ててキスをしている。
 外国の映画のような――小さな恋のメロディのような二人の姿。
 とても可愛らしい、ほのぼのとした雰囲気である。

 間違っているとすれば、少女が可愛らしい服を着ていないことだろう。

 だって、横に転がっているトンファーには血痕がある。
 先程、少女は路地裏で群れていた学生を咬み殺していたのだ。

「今の言葉が嘘になったら、いくら綱吉でも咬み殺すからね」
「怖いね。キョウちゃん、強いからな〜……」
「返事は?」
「嘘なんか吐かないよ、絶対」
「それならいいけどね」

 嬉しそうに笑みを浮かべる少女に、少年は滅多に見られない笑顔を嬉しそうに見つめるのだった。



* * * * * *



「――あ、夢か」

 眼を擦りながら起き上がる綱吉。

「久し振りに見たな……あの夢」

 かれこれ十年近く前の出来事を思い返す。
 いくら夢になってたとしても、内容は全く改竄されていなく、現実そのままだった。
 思い返すとしっかりと、トンファーに付いてた血が生々しかった。

「キョウちゃん、元気かな〜?」

 遠く離れた異国に住んでいる現在、幼馴染のことを知ることは全くできない。

「……きっと、今も誰かを咬み殺してるんだろうね…………」

 あの性格が変わるとも思えないので、それだけは事実だろう。

「――と、ランニングに行ってこなきゃ」

 いつも走っている時間だ、と立ち上がるのだった。



 綱吉は、昔から好きだった少女が強かったのもあり、その少女を護れるように、と武道を習うようになっていた。
 父親に何でそんなに頑張ってるのか? と聞かれ、好きな子を護るため、と答えたら家光はとても楽しそうに笑っていた。

「お前も男の子だったんだな……よし、父さんが強い先生を紹介してやる!」

 そう言って連れて行ってくれた道場らしき場所で戦い方を教えてもらった。
 まぁ、それも父親が姿を消すまでだったのだが――



「ツッ君、荷造りしましょーか」

 そう奈々が突然言い出した。

「は? 母さん、何いきなり……」
「日本に帰るわよ〜」
「え? 父さんの帰りここで待つっ――あ、聞いてない」

 ここに留まることを決めた時、奈々は――

「きっとここに戻ってくると思うから、ここでパパの帰りを待っていましょうね〜」

 と言っていたのだ。
 綱吉がここに居るくらいなら、日本に帰ろうと言ったのに……
 奈々は一人で荷物を纏めているんだか、部屋の片付けをしているんだか分からないことをやっている。



 いくら何でもこんな急に帰るなんて、ありえないし。
 きっと本気じゃないんだろう――と暢気に構えていたら……



「いきなり日本だし。並盛だし……」

 唖然とするしか無い綱吉。

「ほらほら、ずっと家を空けてたから、ちゃんとお掃除しないと寝る場所も無いわよ〜」

 グイグイと背中を押して、昔住んでいた家へと入っていく。
 確かに、埃は凄いし掃除をしなければ寝る場所の確保すら出来ないだろう。

「それから、明後日には入学式だそうだから、明日は制服を買いに行かなきゃね」
「明後日!?」

 そんなに急な話だとは思わずに綱吉は声を上げる。
 しかし、奈々はそんなことは全く気にせずにマイペースに掃除をしている。

「…………」

 どうしようもない、と溜息を吐く。

(キョウちゃんに会いに行きたいな〜と思ったけど、これじゃ無理だね……)

 あまりに大変そうな掃除に溜息を吐き、流されるままに生活することにしたのだった。



* * * * * *



 急だった割に、教科書や制服の裾上げなどもしっかり間に合い、綱吉は現在、並盛中学の体育館に居た。

(……あれ?)

 何か違和感を感じた。
 何の変哲も無い校長挨拶だが……

(校長先生、凄い汗かいてる?)

 しきりに額の汗をハンカチで拭いながら、挨拶はかなり早口で言っている。
 何でなのか、並んでいる新入生たち全員が分からないようであり、一部の人と在校生と教師のみが焦っているようだ。

「続きまして、風紀委員長より学校生活での注意があります」

(……は? 今風紀って言った? 生徒会長とかじゃなく?)

 流れ的に、次辺りが生徒会長の挨拶だと思ったのに、と一瞬ざわつく。
 壇上に上がったのは学ランを肩にかけた少年。
 並盛中学の制服はブレザーなのに、学ランであることに戸惑う。
 袖の部分に留めつけてある風紀と書かれた腕章だけが、彼が風紀委員であることを示している。

「うるさい」

 名前も名乗らずに、ただ一言。
 一瞬にして静まった体育館内に響く声で伝えたかったことを言う。

「群れるな。風紀を乱す奴は咬み殺す」

 全体に眼をやる彼は、一点を見て一瞬止まる。


 眼が合った瞬間、綱吉は彼じゃない! と気付いた。


 今の一言だけで終わらせようと思っていた彼――いや、彼女は再び口を開く。
 眼が合った一瞬から、視線が逸れない綱吉は眼を丸くしていた。

「この中に僕の機嫌を損ねる奴が居たみたいだね。心当たりがある奴はHR後、応接室に来るように」

 眼が合ったままであることから、自分を呼んでいることは明白だ。


 というより、綱吉自身、理由が分かってしまい、行かざるを得ない。


 それ以上、言葉を発すること無く、彼女は壇上から降りていった。
 機嫌を損ねる、という内容に、校長や教師たちは青褪め、誰なのだ、と新入生達に眼を向ける。
 新入生達は何が何やら分からず、ただ、風紀委員長には近付いてはいけない。

 それだけを覚えたのだった。




 体育館から割り当てられた教室へと移動し、短時間で終わるHRの時間。
 担任となる先生から入学祝いの言葉を受け取った後、先生は注意を始めた。

「この学校で一番注意をしなければいけないことは、風紀委員の前で群れないことだ」
「……センセー、群れって何ですか?」

 それはそうだ。
 それが一番の疑問だろう。

「確実なことは言えないが、二人以上で連れ立って歩いていることを意味するらしい。あとは、楽しげに話して騒いでいることも含まれるようだ」
「二人以上!? センセー、二人って群れですか?」
「先生は分からん。ヒバリがやったことを総合して考えるとこうなるだけだ」
「……ヒバリ?」
「そうだ。雲雀恭弥。先程の風紀委員長だ」

 風紀委員長……とクラスメイト達全員が呟いている。
 近付いてはいけない相手の名前を心に刻む皆。

「先程のことだが……このクラスにはヒバリが言っていたことに心当たりがある人はいないか?」

 自分のことだと思いつつも綱吉は何も反応を示さない。
 誰一人反応を返さないため、ホッと溜息を吐く。

「先生も巻き込まれたくないから、お前らも眼を付けられるんじゃないぞ〜」

 このクラスの担任は、笑って話をしめた。
 そうやって、皆の固さを少し取り除いてくれる、いい先生だった。



* * * * * *



「…………ふぅ」

 綱吉は奈々を先に帰るように伝え、一人応接室へと向かっていた。
 入学式だけの今日、生徒たちはすでに帰宅し、残っているのは極少数。
 特に応接室への道は、群れるのを嫌う雲雀のためか、シーンとしている。
 静かな空気に包まれている廊下を渡り、応接室の前に辿り着いた。

 コンコン。

 あれだけ皆が恐怖をしており、入学式の最中に機嫌を悪くした奴、とまで言われたはずの綱吉は気負いの欠片も無くノックした。

「開いているよ」
「お邪魔します」

 お互いに淡々とした対応で、応接室内のソファへと向かい合って座った。



「さて、ここに来たってことは、僕が言いたいことは分かってるんだよね」
「うん、久し振りだね、キョウちゃん」
「いきなり消えたの、ツナだよ」
「……そうだね。いきなり父さんに外国連れてかれたから」
「外国? どういうこと?」

 綱吉のネクタイを引っ張り、恭弥は首を多少締め付けている。

「キョ、キョウちゃん! ちょっと苦しい。説明するから放して」
「わかりやすく説明してよね」

 あっさりと手を離した恭弥に、ホッと息をつき説明を始めるのだった。




 小学校に入学する頃だったが、急に綱吉の父、家光は外国から帰ってきて綱吉と奈々に宣言した。

「これから世界旅行に行くぞ!」

 綱吉は小学校に行きたかったので嫌がったが、気付いたら機上の人となっていた。
 そして、世界各地を転々と渡り歩き、観光をしたり一ヶ所に数ヶ月留まって学校に通ったり……忙しい生活を数年送っていた。
 そして、現在から一年くらい前だったか。  急に家光は姿をくらました。
 その居なくなった場所で奈々は家光を待つのだ、と言い、綱吉はその地の学校へと通い始めた。
 日本で待った方が良い、と綱吉は何度と無く言ったが、奈々の意志は固かった。


 固かったので、まさかあんなに急に日本に帰れることになるとは思わなかったのだが……




「ふぅん。そうだったんだ」
「うん、そうだったんだよ」

 お互いに頷き合う。

「――ところで、何でオレはこんな体勢になってるのかな?」
「わからない?」
「いや、わからないから聞いてるんだし!」

 綱吉は恭弥を見上げ、困ったように微笑んだ。
 現在の体勢とは、恭弥が綱吉をソファに押し倒していることを言っている。
 話の最中にネクタイこそ離してくれていたが、逃げないようになのか、ソファに押し付けられていた。
 その体勢がだんだんと崩れて、現在の状態になったのだろう。

 けれど、綱吉の腹部に跨るように座り込んでいる恭弥の様子を見れば、そうとも言い切れないか。

「えぇっと……何をしようとしてるのかな?」
「見たらわかるでしょ?」
「わかるって……わからないよ! わかりたくないよ!」

 恭弥の手が綱吉のネクタイを解き、シャツを脱がし始めている。

「言って欲しいなら、言うけど?」
「言わなくていい! ってか、何でこんなことに〜〜〜!!?」



* * 暗転。流石に書けないので(逃) * *



「ふふふ。ごちそうさまでした」
「……おそまつさまでした? なのか?」

 あぁ、何でこんなことに? と綱吉が遠い眼をしている。

「なんで、こんなことを……?」
「……だって、ツナが消えるから…………逃がさないためには既成事実しか無いかと……」
「たったそれだけのために!?」
「それだけ!? それだけ、とか言うの!」

 涙目になってしまっている。


「……ツナ、僕のこと嫌い?」
「え? 嫌いなわけ無いよ」

「じゃあ……僕のこと…………好き?」
「うん、好きだよ」


(――って何あっさりオレ頷いてるんだ!?)

 すんなりと答えを返していて、自分でも驚いている。
 何で急にこんなことをしたのか、という話なのに、告白になってしまっていることに戸惑っている。

「ありがとう。僕も綱吉のこと好きだからね」

 嬉しげな笑みを見せ、綱吉に口付けを送るのだった。



 順番こそ間違っていたかもしれないが、お互いにずっと想いあっていたのだから、間違ってはいないだろう。







二人共男の子の話と違い、こっちの綱吉強いです。
死ぬ気こそ使えないものの、一般的な武道を修めているため、戦える。
そして、男女なため障害無いのもあって、二人の進展が早すぎますよ。
まぁ、思ったとおりに進めようとする雲雀さんなら仕方ないのか。



その後の二人。

「あぁ、後始末しなきゃ」
「それはそうなんだけど……大丈夫なの?」
「何が?」
「血とか出てたんですけど……」
「あぁ、初めてだったからね」
「――って、あっさり!? 身体は大丈夫なの?」
「うん、大したことないよ」
「それに、避妊とかそういうの――」
「してないね」
「子供とか出来たらどうするんだよ、この年で!」
「別に産めばいいでしょ。それで綱吉が捕まえられるなら僕は構わないよ」
「…………」

 あけすけに物を言う恭弥に綱吉は赤い顔をしていた。




はい、裏話。
なんか雲雀さんのキャラが素晴らしいことになっていってます。
雲雀さんの方が強いから、この場合でもヒバツナだよな〜と私は言います(笑)

省略してた部分も入れて、ちょっと直しましたv

2007/12/13 作成
    戻る