「私、可愛い娘が欲しかったのよ……」

 手にしたコップを干し、部下に愚痴るように文句を言っている。
 仕事を終えて、社員たちを引き連れて行きつけのバーに彼女は居た。

「弥生さん、飲みすぎですよ」
「裕恭さんも思うでしょ〜? あの子が女の子らしい格好していたのなんて五歳くらいまでじゃない!」
「それはそうなんですけどね……」

 部下たちは弥生がまた娘に対する愚痴が始まった、と普通に見守っている。
 弥生が恭弥に対する愚痴を言い出すのはいつものことなのだ。
 その弥生の止め役はいつも裕恭。

「いつも迷惑をかけて悪いね」
「いえ、大丈夫です」
「娘さんってどんな方なんですか?」

 いつも聞かされている内容から考えるとどんな人なんだろう? と今までずっと疑問に感じていた部下が口を開いた。
 それに対して弥生は軽く言ってしまう。

「並盛の秩序よ」
「…………」
「…………」
「…………なみもりの…ちつっ……」
「そ、それって…………」
「雲雀恭弥〜〜〜〜〜〜!!?」

 とんでもない言葉を聞いてしまった、と部下たち全員が石化している。
 店のマスターも部下も全員固まってしまっている。

「弥生さん……」
「何であんな風に成長しちゃったのかしら」

 ふぅ、と一人悩ましげに溜息を吐く弥生に、部下たちは石化したまま思う。

 (そういえば弥生先輩って雲雀さんでしたね……)

 弥生と裕恭が同じ職場に居るため同じ苗字で呼べないので、名前で呼んでいたのも気付かなかった一つの原因だ。
 それ以前に雲雀恭弥が女性だと知る訳が無いのだから、気付く訳が無いのだが。

「並盛の秩序……って、え? 雲雀恭弥に親なんていたの!?」

 この部下は恭弥が木の股から生まれたとでも言いたいのだろうか?

「――って、娘って、娘って……ヒバリさん、女ぁ〜〜〜!!?」

 大パニックです。
 しかし、その言葉を耳に入れた弥生は、恭弥に親なんていたの!? に怒りを覚える。

「何か、今……聞き捨てならない言葉が聞こえたようなんだけど……」

 弥生の後ろに暗雲が立ち込めている。

「ヒッッ……」

 弥生の雷が落ちた。
 店の中全体に弥生の怒声が響くのだった。


「……これくらいは当たり前だよね」

 と裕恭が弥生の怒声に小さく頷いていた。




「…………軟弱ね〜……」
「本当だね。まさか全滅とは……」

 翌日、出社した弥生と裕恭がデスクに着くと、全ての席が空席だった。

「一応はちゃんと休暇連絡だけはしてきてたみたいだけど……」
「どうしましょうか、弥生さん」
「……そうね」

 少し悩んだ弥生は携帯でポチポチとメールを打つ。
 そして、立ち上がると裕恭に言った。

「恭弥に手伝ってもらうわ。連れてくるから少しだけでも片付けておいて」
「了解」

 行ってらっしゃい、と弥生に手を振り見送った裕恭は居ない間に少しでも片付けようと仕事に取り掛かるのだった。



「はぁ!? 何で僕が行かなきゃいけないのさ」
「だって、恭弥なら仕事できるじゃないv お母さんを助けると思って、ね?」
「……僕だって風紀の仕事があるんだけど」
「うちの会社が潰れちゃってもいいと言うの!? 潰れて職を失って、一家離散とかになっちゃうわよ!?」

 いいの? ツナ君の隣の家に住めなくなっちゃっても……

「わかった」

 即答である。
 綱吉の隣の家に住めなくなるということが嫌だったようだ。

「で? どこに行けばいいの?」
「とりあえず、うちの会社へ行くわよ!」

 そう言って、弥生は車で恭弥を並盛町から連れ出したのだった。




「お待たせ、裕恭さん!」
「恭弥、おはよう」

 今日はまだ会っていない、と朝の挨拶をする裕恭。
 手は書類を分類しているまま、動き続けている。

「おはよう、父さん。で? 何をすればいいの?」
「まずはこの書類を頼む」

 裕恭が指指した書類の山を溜息を一つ吐いて片付け始める。

「恭弥なら使えるから助かるわよね〜v」
「弥生さん、頑張らないと流石に終わらないよ」
「そうね」

 そして、雲雀家の三人は無言で仕事を片付け始めるのだった。
 音と言えば彼らのペンが立てる音と書類が擦れる音。
 そして、電話の音と電話に対する応答のみであった。



 そんな時間が数時間過ぎ、昼食を取っていた時だった。

「す、すみません……仕事、大丈夫ですか……?」

 ヨロヨロとよろけた状態で何とか動ける数名が仕事に出てきた。
 昨日の精神的ショックと弥生の雷に精神的肉体的にやられた部下たちの一部が何とか出てきたのだ。
 しかし、彼らは昼食を食べている弥生・裕恭、そして恭弥の姿に雷を受けたかのように硬直した。

「あら? 皆来てくれたのね」
「そうだね。色々とお得意様への訪問等をお願いしたいからね」
「いいんじゃない。それより、母さん、これなんだけど……」

 そう言って、恭弥が手にしていた書類を弥生に見せる。

「……ヵ…かあさ…………」

 バタンッ。
 オーバーヒートした部下の一人が倒れ込む。
 恭弥が弥生に母と声をかけたことに昨日のことは真実だと気付いたためだろう。

「何? 何でそれ倒れてるの? 邪魔なんだけど」
「そうね。そこのアナタ、移動させて」
「は、はいっ!」

 指名された部下が慌てて移動させている。

「……本当に使えない」

 恭弥のその呟きに社員たち全員が冷や汗をかいていた。




「十代目! 今日は何やら急いでいるのですか?」

 ホームルームが終わると同時に学校を飛び出すなんて……
 そう言いながら、綱吉の後に付き従うように走っている獄寺。

「ごめん、オレちょっと外せない用事があるんだよね」
「お付き合い致します!」
「ううん。獄寺くんは先に帰ってくれる?」

 笑顔を浮かべて獄寺が付いてくるのを拒否する。
 その笑顔でありながら全く笑っていない笑顔に、獄寺は恐怖を感じ、頷いた。

「それじゃ、獄寺くん。また明日ね!」

 そして、一直線に走っていく。
 その笑顔の恐さと一本芯が通ったような視線に、大人の男みたいな覚悟や意思を感じる! と獄寺は校門近くに立ち止まったまま、

「……その覚悟、流石は10代目! 渋いです!!」

 そう叫ぶのだった。


 ニッコリと笑顔を浮かべた綱吉が会社のオフィスに現れた。
 その笑顔は壮絶で、瞳だけは笑っていない怖い笑顔だ。

「何か、聞き捨てならないことを小耳に挟んだんだよね……」

 ねぇ、どういうことかな?

「キョウちゃんが人間じゃないかのような発言をしたとか……」

 そんな奴ら、生きてる価値無いよね?
 笑顔を収めた綱吉は、そのまま零地点突破ファーストエディションを放った。
 それによって凍りついた社員たちを見た弥生と裕恭は、恭弥に対してあんなことを言ったんだし、自業自得よね! と親指を立てて綱吉に笑顔を向けた。

「グッジョブ!」

 特には問題無い、と笑い合う三人だった。




「次のニュースをお伝えします。本日午後5時頃○×ビルの△■社オフィスが一瞬にして凍りつくという怪奇事件が発生しました。社員はまだ救出されておらず現場では必死の救助活動が行われている模様です」

 テレビからそんなニュースが流れてきた。
 アナウンサーが読みあげるその言葉に、恭弥は一緒に夕食を食べていた綱吉を見た。

「……ねぇ、ツナ」
「何? キョウちゃん」
「このニュース……」
「あぁ、弥生さんたちの会社だよね? 何があったんだろうね♪」
「……別にいいけどね」

 綱吉の音符が付いたような言葉に何となく事情を察して、僕にはそんなの関係無いし……
 何となく綱吉の機嫌も良いようだし、とそんなニュースを忘れることにした。


「恭弥〜〜〜!!!」

 と、玄関先から弥生の大声が聞こえた。
 それに、綱吉との二人きりの夕食が邪魔された、と不機嫌になる恭弥。

「…………何?」
「また助けてちょうだい! 社員たちが一人として使い物にならないのよ!!」
「……あぁ、あのニュースのせい?」
「そうなの。お願い! あと、ツナ君も、ね?」
「はい」

 綱吉は苦笑を浮かべて頷いた。

「でも、ちょっと困ったのよね。書類とデータが回収できなくて……」
「はい、これでしょ?」

 自分のカバンから取り出したUSBメモリを手渡す。

「一応、重要そうなのはほぼ入ってるから大丈夫だと思うよ」
「ホント!?」

 慌ててノートパソコンで中身を確認する。

「助かったわ〜v ……って、ちょっと恭弥。なんで貴女が持ってるのよ?」
「並盛にも事業を伸ばすって言ってたからね。ちゃんと調べておかないと」
「勝手に持っていかないで欲しいわ……いえ、今回は助かったし……いいわ」

 言っても意味が無いだろうし、助かったのだから不問にしよう。

「でも、並盛に入る企業全てのチェックをしてるの?」
「まぁね」
「そんなことまでしてるのー!!?」

 あっさりと頷く恭弥に、綱吉は突っ込むのだった。







何か気付いたら本編になってた(笑)
最初は番外編っぽく書いてたんですけどね・・・

2008/2/5 作成
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