「ツナ、明日の予定キャンセルしていい?」
久しぶりのデートの急遽キャンセルという事態に、何か問題でも起きたのか、と綱吉は恭弥を心配そうに見返した。
「キョウちゃん、一人で大丈夫?」
「……ぁ、風紀の関係じゃないんだよね」
だから大丈夫、と言った恭弥に綱吉は首を傾げる。
「じゃあ、なんで?」
巡回込みじゃないデートなんて久しぶりだったのに、と拗ねたように言う。
「今日、女の子に告白されたんだよね」
あぁ、キョウちゃんカッコイイから……
「あっさり断ったんだけど、引き下がられて、デートしてくれたら諦める、って」
諦めてくれるならいっか、と思って。
「ぇ…………ねぇ、キョウちゃん、どこ行くの?」
「ちょっと買物程度?」
それくらいで納得してくれるといいな。
「ふぅん。止めてって言っても無駄なんだよね?」
「もう良いって言っちゃったからね」
ごめんね、来週行こう?
「うん、仕方ないよね」
女の子相手の時は仏の顔も三度まで、で許してあげよう、って言ってるのは綱吉なのだから。
「曲がりなりにもデートなら、制服は止めなよ?」
そう、助言を付け加えた。
朝、目が覚めたのでカーテンを開き、窓の外を見下ろした。
――と、白いワンピースでレースが彩られた服を着た恭弥が玄関を出た所だった。
「ちょっ!」
制服は止めよう、って確かに言ったけどさ!
「それはダメ〜!」
まず、相手がそれは気付けないって。
パタパタと階段を駆け降りて、家を飛び出し、綱吉は恭弥に声をかけた。
「おはよう、ツナ」
「お、おはよ……じゃなくて、それで出掛けるの!?」
流石にそれは相手が面食らうか、ビビる気が……
「あぁ、これは今日ツナと出掛ける時に着る予定だった服」
待ち合わせはまだ一時間は先だから。
「ちょっとコンビニに買物に行こうと思って」
「え? そうなの?」
早とちりか、と胸を撫で下ろし、コンビニに一緒に行く、と笑ったのだった。
コンビニから帰り、恭弥が着替えるのを待っていた。
「キョウちゃん、デニム持ってたんだ?」
「うん、これ一本だけ」
前に買ったから、これだけだと言いながら、上は重ね着している。
「これ、レディースだけど、大丈夫かな?」
中に着た物だから見えないし大丈夫だろうが。
「大丈夫じゃない?」
早々バレないだろう、と綱吉は頷いて、出掛ける恭弥を見送ったのだった。
待ち合わせ時間まで後15分。
まだ来てないよね、と視線を巡らせた少女はホッと胸を撫で下ろした。
相手は秩序、遅刻はおろか、待たせたりなんかできない。
来るまでの時間、これは夢じゃないよね?
本当に約束取り付けられたんだよね?
ここで待っていれば来るんだよね?
そう頭の中をぐるぐる巡る。
でも、嘘みたいだ。
覚悟を決めて書いた手紙。
『好きです。
時間がございましたらで構いませんので、来て頂けると幸いです。
四時に裏庭でお待ちしております。』
そんな内容で、来てもらえるとはあまり思っていなかった。
時間ちょうど。
一直線に向かってきた学ランをたなびかせる姿に心臓が痛い程に鼓動を始めた。
「君が?」
手紙に書いた署名の名前を呼ばれる。
彼の口から自分の名前が出ていることが感動物。
来てもらえるとは思ってなかったから嬉しい、と見上げる。
「群れては無いようだね」
雲雀さんに会うために群れれるわけが無い。
完全に一人です。
「それで?」
「わ、私は雲雀さんが好きです。つ、付き合って下さい!」
何とか言った告白。
何度もしていたシミュレーションだったが、意味が無かったようだ。
「僕は付き合えないよ」
告白をされること自体が不快で、少しムッとしている。
「一人だったし、その勇気を評価して咬み殺さないであげるから、とっとと失せなよ」
取り付く島も無いとはこのことだろうか。
しかし、簡単に諦めれるならラブレターを出したり、呼び出しをするわけが無いのだ。
「明日、一日で良いので!」
思い出に、だけでも! と頭を下げる。
「……咬み殺されても文句言わない?」
「は、はい!」
希望の一筋の光に飛び付く。
「10時に駅前通って買物に行く予定がある」
付いてくるなら止めないよ。
そんな許可に涙が滲む。
「あ、ありがとうございます!」
待ってます! と言うことは言ったと去っていく背中に叫んだ。
10時ちょうど。
目の前を歩いて通り過ぎていった雲雀さんを見つけて、慌てて後を追った。
「おはようございます!」
「あぁ、おはよう」
返事を返してくれたことが嬉しかった。
あまり纏わり付いたら嫌われそうなので、大人しく一歩後ろから付いてゆく。
目の前を通り過ぎた時よりスピードが緩まっているように感じるのは気のせいだろうか。
黒か白のイメージしか無かった雲雀さんが着ていたのは、薄いブルーのシャツとジーパン。
デニムなんか着るんだ、と少し驚いた。
「私服素敵ですね」
ポロリと口から零れた言葉に手の平で口を塞ぐ。
言っちゃいけないことだったか。
「制服だと目立つからね」
確かに。
ただ納得してしまった。
「そういう服多いんですか?」
休みの日まで制服では無かったということはそうなのだろうが……
「いや……全然」
じゃあ何を着ているんですか?
って、聞いたらダメなことなのだろうか……
気になって見つめていれば、思い立ったかのように洋服を売るショップへと入ろうとしている。
ちょっと戸惑っていれば。
「来ないの?」
と声をかけられ、駆け足で店へと入っていった。
「雲雀さん?」
服を見ている雲雀さんの真剣な瞳に、見惚れる。
「私服の一着くらいあっても良いからね」
あぁ、さっきの会話で自分の服を買おうと思ったのか。
どんなのを選ぶのかちょっとワクワクしながら見ていれば、雲雀さんは振り返った。
「どれが似合うと思う?」
ワオ! 私が選んでいいんですか?
つい雲雀さんの真似をして声を上げそうになったが、真剣に選んだ。
自分の選んだのを着てもらえるチャンスだよ!
はっ、落ち着こう。
何色が良いだろうか?
やっぱり黒?
今着ているし、青も良いし、意外と派手な色も似合うんじゃないかな?
紫色のシャツを手にしかけて、雲雀さんの手首が目に入った。
気付いたら白いパンツを選んでいた。
手首の白い腕時計のバンドを見たら、白が良い気になって。
上はさっき取りかけた紫のシャツと、今着ているのと似た青のシャツを選び渡した。
「これ?」
「いつも黒いイメージなので白にしてみました」
気に食わなかった!? と焦りながら言えば、軽く頷かれた。
「着たこと無いし、良いかもね」
あっさりと試着しに行ってしまった。
白いパンツルックの雲雀さんは、風紀委員長のイメージとは全く違いました。
なんか、爽やか?
似合っているんですけどね。
服を買った後、私は再び雲雀さんの後ろをついて歩いている。
「……疲れた?」
疲れたなら喫茶店にでも入るか、と店を探し始める。
「い、いえ、大丈夫です」
「なら、そこ入るよ?」
小さな小洒落た雑貨屋さんを示した雲雀さんに頷く。
しかし、あまり雲雀さんのイメージとそぐわない可愛いお店。
それ以前に女性ばかりで入りにくそうなのだが、気にしていないようだ。
「何か欲しい物でもあるんですか?」
手に取っては戻している姿に首を傾げる。
「ちょっと――」
ごまかし気味にそう言った雲雀さんは、決めたのかキーホルダーを手にした。
手持ち無沙汰にあれこれ手にしていた私の手から、長く持っていた物を一緒に持っていってレジに行ってしまった。
え? あの……
「服買うのに迷惑かけたからね」
お礼、とさっき持っていった物をプレゼント用に包装した物を渡された。
「あ、ありがとうございます!」
雲雀さんに貰えた物というだけで価値上昇だ。
選んでいた物は綺麗に包装されて袋に入れられていた。
今日の買う予定の物って、それだったのだろうか?
プレゼントだよな〜、と見ていれば、雲雀さんが振り返った。
「お昼だけど、食べたいものある?」
あぁ、気付いたらそんな時間か。
憧れの雲雀さんと一緒にいれる、ってだけで幸せだから、お腹なんかすいてない。
むしろ胸いっぱい。
「そうだね……確か、」
近くの店を考えているのか、瞳が心持ち伏せられる。
それだけでも周りの視線を集めるとか、凄いな。
店へと先導していく雲雀さんについていけば、お洒落なお店。
さっきから女性が好きそうな店ばかりだよね、そういえば。
「この前食べた時美味しかったからね」
とここらへんではあまり見ることが無い、そば粉のガレットを示す。
食べたこと無いなぁ、と店のオススメマークの付いたそれを頼み、向かいに座る雲雀さんを見た。
どうしてこんな店に来たんだろう?
並盛に入ってきた店全てに干渉している、という噂は本当なんだろうか?
それで知っていたのか、とも思うが、どこか違和感が付き纏う。
一度として聞いたことは無いが、彼女でもいるのだろうか?
プライベートは完全に謎な雲雀さんだから、何を言われても納得しそうだが……
先程のプレゼントと相俟って、そんなことを考えていた。
ガレットは美味しかった。
どこか苦みのある、けれど甘い、不思議なクレープのようだったが、また今度食べに来ようと店の名前を覚えた。
まだ一日は終わっていないのだが、雲雀さんは予定が済んだから何も無いなら帰るつもりらしい。
無理やりついてきたようなものだから、我儘は言えないだろう。
「どこか行きたい場所ある?」
一ヶ所くらいなら付き合うよ、と言われて、人があまりいない河川敷を指定した。
何かを見に行きたいわけでも何でもないので、少し長く一緒にいれる場所なら、と考えてそう言ったのだ。
それなら、とゆっくり歩いていく。
やはりスピードを緩めてくれているようだな、と思う。
そんなことされたら、ますます好きになってしまうじゃないか、とも思いつつ、口にしたら自分のペースなんだと答えられそうだが。
「……静かな場所はいいね」
群れがいないのは良いことだ、と言った雲雀さんに頷いた。
せっかくの景観が損なわれるくらいなら、人はいない方がいいだろう。
特にこんな場所では。
下手すると、不良がたむろしている可能性があるかと思っていたが、それは無いようだ。
ポツリポツリと話す程度で時間は過ぎ去っていく。
空が赤く染まり始める。
そろそろ帰らなくてはならない。
というか、雲雀さんがよくここまで何も無いのに付き合ってくれたものだ。
「君、ちょっとここで待ってて」
「ぇ!? ぁ、はい……」
動くな、と言い置かれ、雲雀さんはどこかに行ってしまった。
え? 私どうしたら……
戸惑いながら、佇んでいると、遠くからバイクの音が聞こえてきた。
「僕の気に障らなかったから、特別にね」
送っていってあげる、暗くなったから、と言われて眼を瞬かせた。
「い、いいんですか!?」
頷く雲雀さんに、恐る恐る後ろに乗れば、落とされないようにしっかり掴まれと言われる。
腰に手を回せば、何という細さ!
鍛えてる云々より、何よりかにより、私どころかモデルの女の子より細いんじゃない!? というレベルの細さに驚く。
スピードが出ている中しがみつき、背中に頬が付く。
…………ん?
背中に違和感を感じる。これって、何かある?
「どっち?」
「ぁ、そこを右に――」
学校の傍を通り、道を確認され、声が届かないかもしれないから、と片手で方向を指さして、それから手を戻そうと…………
い、今、何かふにっとしたのは何でしょうか?
ぐるぐると、頭の中を思考が纏まらず巡り続ける。
そんな中も走り続けていたバイクは目的地に着いたらしい。
「着いたよ」
家の前に停められ、バイクから降ろされた。
「あの、バイクに乗せてもらったのって、他に――」
「あぁ、君で二人目……いや、三人目か」
光栄に思いなよ、僕がパーソナルスペースに近付けたのはそれくらい少ないんだからさ。
「それと、何か気付いたとしても、君は言わないでしょ?」
何か感付いただろう、と言い当てられ、肩を揺らせてしまう。
「は、はい!」
「それじゃあね」
もうこんなことは無いだろうけど、と去っていく彼――否、彼女のことを私はただ見送った。
数日後、雲雀さんが買っていたキーホルダーを使っている彼を見つけた。
そういえば、と同じ腕時計をしていることにも気付いた。
近くで見たから分かったことだけれど、色違いでお揃いだよね、その腕時計。
あぁ、なるほど。
あの日の買い物は、雲雀さんが彼にあげるためのものを買いに行くのだったのか。
お幸せに、雲雀さん。
憧れと共に消え去った恋は甘くて苦い味だった。
フェミニストなキョウちゃん。
ガレットは先日食べて美味しかったから、経験から?
今度また食べに行こうっと。
多分甘かったのはデザート風のだったから、で苦めなのはそば粉だからだよね。
まぁ、憧れよりの恋の味は苦かった、みたいな話にしたかったのですよ。
2010/04/11 作成
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