「綱吉」
「キョウちゃん? ちょっ、どっから入ってきてるの!?」
「ちょっといい?」
夜、窓から綱吉の部屋に訪問した恭弥に綱吉は驚いていた。
これから何度と無く窓から訪問されるようになるとは思いもしない綱吉は、初めての窓からの訪問に焦って恭弥を室内へと招き入れた。
「危ないから、窓から入ろうとしないで」
「そんなのどうでもいいよ。それより、これあげる」
ポケットから取り出した物を綱吉へと手渡した。
「はい?」
「これ、あげるから使って」
「ちょっ! こんなお金かかる物貰えないよ!」
「ツナ、こっち帰って来たばかりなんでしょ? 買う暇なんて無かっただろうし、もう連絡取れなくなるの、嫌だから……ね?」
「……うん」
連絡が取れなくなるのが嫌、と言われれば、仕方ない。
連絡が取れなかった間、綱吉自身も後悔していたのだから尚更だ。
恭弥が差し出した携帯電話を大人しく受け取った。
「奈々も家に居るよね?」
「下に居るけど……」
その返事を聞いて、恭弥は下へと降りていく。
その後ろを付いていくと、恭弥は奈々に話しかけていた。
「奈々」
「あら、キョウちゃん。いつ来たの?」
「さっきだよ」
「そうだったの。気付かなかったわ〜」
ゆっくりしていってね、とニコニコと微笑む。
「奈々もこれを使ってくれる?」
「あらあら、まぁ……」
恭弥はポケットから携帯電話を取り出して手渡した。
「プレゼントしてくれるのは嬉しいけれど、使用料は払わせてね」
「……じゃあ、後で手続きの書類を届けさせるよ」
綱吉にも同じように渡したけど、そうしたら奈々と綱吉の二人分の方がいいかな?
「そうね、両方お願いするわね」
奈々がそうお願いした後、手にしていたケーキを見せる。
「これからデザートなのよ。キョウちゃんも一緒に、ね?」
「……うん」
「ほら、ツッ君。手伝って」
居間の入り口の所に居る綱吉に気付き、奈々はそう声をかける。
台所で奈々がお茶を淹れている間に綱吉がお菓子をテーブルに運ぶのだった。
* * * * *
「キョウちゃん! 助けて!!」
大声で恭弥の名前を叫びながら、綱吉は応接室へと駆け込んできた。
応接室の扉を開いた中では、恭弥へと報告中であった草壁が、綱吉の勢いに驚いている。
「……何?」
「キョウちゃん、忙しかった?」
手にしていた紙をギュッと握り締めて、HR前に駆け込んだらダメだったかな、と思う。
綱吉が握り締めた紙へと視線を向け、あれは何だ? と恭弥は疑問を持つ。
「別にいいよ。……草壁、報告書は置いていって。それだけでいいから」
「はっ」
恭弥にソファへ座るように示された綱吉が移動しているのを見ながら、応接室を後にした。
綱吉が座るソファへと移動し、隣へと座り込む。
「……で?」
「キョウちゃん、あの、ね……助けてほしいんだけど…………」
「だから、何から」
「………………テスト」
綱吉がとても小さな声で答えたその単語に、恭弥は訝しげな表情をした。
「テストって何?」
「えっとね……テストが全然わかんない…………」
そう言って、先程から握り締めていた紙――テストの問題用紙を恭弥へと見せる。
「この問題も、この問題も、この問題もわからないんだ」
「ほぼ全部じゃない」
「それで、教えてもらいたいんだけど……」
「それは……勉強を教えてくれ、ってこと?」
「それも教えてもらいたい、けど……」
「何? はっきりしないね……」
「ご、ごめん! オレに漢字を教えて下さい!!」
恭弥がイライラしたような声を出したことに気付いて、慌てて綱吉が答える。
しかし、綱吉の返事にきょとんとした顔をしてしまう。
「漢字?」
「うん、全然読めなくって……設問読めなかったら全く答えられないし」
「……そういえば、君、日本にいなかったんだったっけ」
ずっと外国に居たって言ってたことを思い出す。
「そうです……」
「……仕方ないね。僕が空いてる時間だけなら教えるから」
「ホント!? ありがとう!」
パァッと明るい表情になった綱吉は嬉しそうに恭弥に抱きつく。
「うわっ。その代わり、何度も同じ間違いをしたら、咬み殺すからね」
「うん、わかってるよ!」
笑顔でそう答える。
「だとしても、そこまで読めないのならヤバイよね」
流石に教師たちに伝えた方がいいね、これは……
「そうして貰えると助かるな」
「わかった、連絡しておく」
これは今日のテストの?
「うん、そう」
「じゃ、後でちゃんと連絡しておくから……」
まずは、一部でも漢字を、ね。
「この文章読んであげるから、覚えなよ」
「はーい」
持ち込んできた問題にHRをサボって取り組む綱吉と恭弥だった。
* * * * *
担任に放課後、理科準備室に来るように呼び出された。
きっと、他の人は返されたけど自分には返されなかったテストの件だろう、と綱吉は理科準備室に向かった。
「先生〜、沢田ですけど」
「あぁ、待ってたよ」
ほら、今回の全教科のテストだ。
「あ、ありがとうございます」
全教科分纏めて来るとは思わなかったが、ありがたく受け取る。
今日のこれまでにあった返却の授業全てが後で渡す、と書かれた模範解答用紙だけだったのだ。
早速、受け取った答案に眼を落とす。
「今日の朝に連絡が来たから、どの先生も大変だったようだぞ」
「ははは……そうは言われても…………」
乾いた笑みを漏らし、頬を掻く。
確かに、一旦採点が終わったであろう時間の連絡だっただろうからなー……
元々、学力テストだったし、早めに返すって言ってたからなー、先生たち。
「もうちょっと早く連絡出来なかったのか?」
「ちょっと難しかったですね」
うっかりしてましたし……
テスト受けるまで気付かなかったのは失敗でした、すみません。
「テストの後も少しパニックを起こしてたものですから……」
パニックを起こしてキョウちゃんに突撃したのはオレだけどね。
それから少し漢字を教わって、何かしてたら、朝だったよな〜……
「一応ちゃんと連絡貰ったからな」
「えっと、帰国子女のため、授業についていけない可能性が高いのと、ひらがなばかりの解答になる、って件ですよね?」
「それは教師中に周知された」
その上で、しばらくはお前のテストは漢字に関しては採点に含まないことになった。
「まぁ、そこまで配慮されることになったのは、風紀委員長のヒバリからの連絡だったからだがな」
「あははは、流石は風紀委員長……」
キョウちゃん、凄いなーと心の中だけで呟く。
「――にしても、だ。沢田?」
「はい?」
「お前のことだったんだな?」
あの入学式でヒバリが言っていた相手って……
「あれ? バレました?」
そんなことが分かるようなことはしてなかったと思うんだけど…………
「ヒバリがただの生徒のためにそこまで動くか!」
怒らせた奴、とか言ってたが、知り合いだったんだろう?
「えぇ、まぁ……昔の話なんですけど…………」
「そうか……」
ヒバリと、な……
「先生に迷惑をかけないでくれよ?」
「はい、気をつけますね」
話は終わった、と準備室を後にしようとした綱吉の背中に担任はついでに一言声をかける。
「あと、一緒に通知された、授業のサボリは風紀委員の活動と同じ扱いに、というのも秘密裏に処理されることになったから」
安心しておけ。
「………………ぇ?」
キョウちゃん、勝手に何やってんの!?
引き攣った笑みを浮かべた綱吉は、そのまま応接室へと走って向かった。
うちのツナは勉強できないわけじゃなくて、漢字が読めません。
――と、長編と同じくこれだけ言おう。
まぁ、長編より先生を詳しく書いてるせいで、違う話になってるんじゃないか?という風に思ったが。
2008/9/23 作成
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