「ツッ君」
「・・・あ、母さん。・・・久し振り?」
町内をふらふらと歩いていた。
巡回をしていたわけでも、どこかに行こうとしていたわけでもなく、ただ単に歩いていた。
家には帰りたくない。
でも、今はまだ忙しいだろう恭弥に連絡をするのも・・・と思い、時間を潰していたのである。
そんな歩いている最中、自身の母親に会ったのだ。
「そうね、最近お家にいないこと多いものね」
「うん、ごめんね」
「いいのよ、一人立ちが早かっただけのことでしょう?」
母さんはあなたが元気なら、それでいいのよ。
「最近、家が賑やかすぎるものね」
「うん、騒がしくなったよね」
「ツッ君、うるさいの嫌いだもの、仕方ないわよ」
気にしなくていいわよ。
「キョウちゃんと仲良く、ね?」
「うん、ありがとう、母さん」
自分のことをよく理解してくれている奈々を見送り、恭弥へと連絡を取るのだった。
「本当に大きくなったわよねぇ」
ふふ、と楽しそうに笑いながら台所にて料理を始める。
小さい時から一緒の恭弥と依存に近いまでに結ばれていることは、奈々にとって不安でも何でもなく、当たり前のことだった。
二人を長く引き離すよりは、と家光が世界旅行へと言った時こそ一緒に行くことにしたが、すぐに日本へと帰ることにしたのは奈々の判断だ。
ちょうど良く家光がしばらく行ってくると綱吉にはオレは消えて星になったと伝えてくれなどと言って旅立ったからだ。
それを言われたと同時にあっさりと日本へと帰ることにした。
親友に早く会いたかったのもある。
「やよちゃんは最近どうしているかしら?」
綱吉と一緒の恭弥のことを考えれば次に浮かぶ弥生のことに思考は進む。
「昔に比べれば、やよちゃんも落ち着いたわよねぇ」
過去のことを思い出し、ふわり、と微笑んだ。
どこまでものほほんとしてふんわり可愛い感じであった奈々と、クール系美人と言えるであろう弥生が出会ったのは中学校だった。
反対とも言っていいだろう二人が仲良くなったのは運命だったのか・・・
その当時、弥生は小学校で有名な不良だった。
男子を相手取っても引けを取らない喧嘩強さに、大人に注意をされても弁が立つため逆に言い負かす。
そんな生活をしていた弥生にとって同世代の子供たちは幼いとしか感じられなかった。
そして、今はまだ力でも男子たちを圧倒できるが、これから男女差が出てくる時期。
第二次性徴が現れ始めたことに恐怖を感じた弥生は今まで以上に多少の無茶をしていた。
どこまでも弁が立つために、全てを敵に回す勢いで話し、孤立していった。
そんな弥生状態に遠巻きになる周りを全く気にせずに話しかけてきたのは、奈々だけであった。
別の小学校であったため、何も知らずに話しかけてきたのだろうと最初は無視していた弥生だったが、他の級友や教師に注意をされたのにも関わらず話しかけてくる奈々に心を開き始めるまでそう時間はかからなかった。
そうこうしている内に弥生と奈々の関係は親友と呼べるまでになり、弥生のとげとげしさのとげが少しだけ丸くなったように感じられた。
そんな時のことだった、奈々が弥生に対する人質として拉致されたのは。
以前から対立していた人たちが協力体制を取ったらしい、と届けられた手紙の署名から明らかになった。
奈々に何を・・・と怒りに駆られた弥生は、怒りを湛えた瞳で指定された場所へと急いだ。
目的地に到着し、奈々のあの性格ならば不良たちを怖がって震えていないか、と心配していた弥生は少し拍子抜けした。
どこか達観したような様子で、彼らを怖がるでも何でもなく人質に取られていることもどうでもよさそうに平然としている。
そんな状態での不良たちの脅し文句も何もかもがむなしく響く中、弥生は彼らを倒した。
これでこそ並盛の秩序の母だとでも言えそうな程の強さを持った弥生にとって、彼らくらいの強さの敵たちを倒すことは何でもない。
倒すことに拘っているわけでも何でもない弥生は、蹴散らして奈々へと駆け寄った。
「大丈夫!?」
「えぇ、大丈夫よ。やよちゃんは大丈夫?」
「怪我しているようにでも見えたの? 大丈夫に決まってるじゃない」
「そうよね、助けに来てくれてありがとう」
「い、いえ、私のせいで怪我されたら困るからよ」
少し照れてそっぽを向く弥生に奈々はふふ、と笑う。
「私にとってやよちゃんは大切だから」
こんなのに怪我をさせられなくて良かったわ、とほわほわ笑う奈々は、可愛いのに酷いこともサラリと言い出す。
「周りの人たちも酷いわよね。私とやよちゃんを引き離そうとか、きっと罰が当たるわよ」
事故に遭うとか、そういうの。
「・・・あ、そうだ。もう捕まらないように気をつけるからね!」
「そうね、心配になるから・・・」
「わかってる。これくらいのこと、日常でもいいけど、やよちゃんとの時間が潰されるのは嫌だもの」
だから気をつける。
そう言って二人連れ立って帰宅した。
この事件は二人の仲を親密にしたくらいの効果しか与えなかった。
それからも不良たちを倒す弥生と、その周りにいる学校のマドンナに近いくらいに優しいけれど誰も近付けない奈々の二人の関係は学校を卒業しても、結婚をしても何一つ変わることは無かった。
「久しぶりに親友と遊びに行くからと言って家を空けようかしら?」
一日くらいならビアンキちゃんたちがどうにかしてくれるでしょう。
ついでに、ツッ君とキョウちゃんともゆっくり会ってこようかしら?
全然会うことできないものね、二人ともリボーンちゃんもビアンキちゃんも嫌いみたいだから。
「そうと決まれば、後で電話しなきゃ」
楽しげにそう音符やハートが付くかのような響きで言った奈々は今まで以上のスピードで料理を進めた。
「・・・キョウちゃん」
ソファに座り雑誌を捲っていた恭弥に綱吉は近付いて声をかけた。
「ん?」
隣に座る綱吉に雑誌から目を離し聞き返した。
「母さんと久しぶりに会ったからだと思うけど、今度食事でも行こうってメール来てたんだ」
「へぇ。ま、いいんじゃない?」
「母さんと弥生さんと四人で、だって」
弥生さん最近忙しくしてたんじゃなかったっけ?
「母さんのことだもん、奈々に会えるならって、すぐに帰ってくるよ」
「そうだねー。弥生さん、母さんのことが大好きだもんね」
そりゃそうだ、と次に四人で遊びに行くのを楽しみだな、と思った綱吉と恭弥は笑みを交し合った。
先日の約束は早々に決行された。
学生時代のお友達をお食事なの♪ とリボーンとビアンキに伝えた奈々は、誰と会うのか詳しいことは言わずに出かけていた。
「お待たせ。早かったのね、みんな」
「今来たばかりよ」
「僕たちは先にケーキとお茶をしに来ていたから」
「あら? デートだったの?」
いいわねぇ、ツー君、キョウちゃん。
「まぁね。それより、座って注文しよ?」
綱吉に言われた言葉に頷き、奈々は弥生の隣に座る。
「久しぶりね、やよちゃん」
「最近、ずっと騒がしいじゃない」
忙しそうだから、私も遠慮しちゃってたのよ。
「遠慮しなくていいのに。お仕事順調?」
「えぇ、裕恭さんのおかげでね」
「ずっとやよちゃんの右腕だったものねぇ、彼」
「まぁ、ね・・・」
過去話をしながらの二人の会話はズレていき、それをおとなしく聞きながら食事に集中していた綱吉と恭弥はそうだ、と顔を上げた。
「ねぇ、母さん。オレがいないことで迷惑になってない?」
「そうだね。僕はツナと一緒なのは嬉しいけれど、奈々が大変なら、ちょっと考えるんだけど・・・」
「大丈夫よ。私は首を突っ込んでいないもの」
家事さえしていればいいって、楽よねぇ・・・
「あぁ、そうそう。でも、最近困ってるのよねぇ」
そうだ、とばかりに手を叩いて食器を置いて三人を見た。
「あの子たち、私が何にも知らないと思ってるのかしら?」
こそこそしているのはわかるのだけど・・・
「拳銃とか刀とか毒とか・・・しかもアサリの話も色々しちゃってるのよね」
本当に困ったわぁ・・・知らない振りもわからない振りも、たまに面倒になっちゃうのよね。
「だから、そんな奴選ぶから、って私何度も言ったでしょ?」
「うーん、それはそうなのだけど・・・結婚に熱意は無かったけれど、子供は絶対欲しかったのよねぇ」
そういう意味ではいい子を産めたから、いいんだけど・・・
「そりゃあ、ツナ君は良い子だけど・・・」
「・・・・・母さん、弥生さん、本人の前でそういう話止めてよね」
苦笑しながら話を止めれば、二人はあら、といった表情で止まる。
「照れもしないくせに何言ってるのさ、ツナ」
「「あら、ごめんなさいね、ツッ君(ツナ君)」」
呼び方だけが違う発言がピッタリとハモった。
「もう、いいです」
溜息を吐く綱吉に、母親たちはコロコロと笑った。
「あの男のいい所と言ったら、奈々に苦労をさせないだけの稼ぎがあることと、家にいないことだけよ!」
食事に合わせて頼んだワインに酔ったのか、弥生が声を上げる。
「亭主元気で留守がいい、ってね。お金がちゃんと来る限りはそれでいいわよね」
でも、知ってるかしら?
「亭主殺すには刃物はいらない。上げ膳据え膳すれば、それだけでいい。ってね」
すること全てを奪ってしまえば、体力も落ちたり太っていって病気になりやすいのよね。
もし、うちに帰ってくるのが多くなるようなら、そうするだけのお話よね。
ふふふ、と笑う奈々の笑みに、恭弥は少し青くなって引いていた。
「・・・奈々が一番最強?」
「そうに決まってるよ」
でも、あそこまで考えてるとは思いもよらなかったけど・・・
計画的完全犯罪を用意してあるとまでは思わなかった綱吉はそう答え、笑い合う母親たちに溜息を吐いた。
奈々さんのキャラが少し変になりました。
そして、何故か弥生さんがスレました。若い頃は無茶してたのねぇ(笑)
でも、スレツナ連載だけですよ?本編じゃ、弥生さんはそういうキャラじゃないんだから!!
そして、裕恭さんは弥生さんの右腕、みたいなw
お食事風景は書き下ろしですよ?(笑)
2009/8/25 回収
おまけ(前に書いて、流石に酷いから、回収に回そうって思ったやつ)
「好きです! 結婚を前提に付き合ってください!」
少し間違った花束を捧げて告白してきた男に眼を丸くした。
その姿は遥か昔にテレビでやっていた合コン番組のような、告白シーン。
それに少し引きかけ、ついでその男は誰なのか気付いた。
(あぁ、この前助けてくれた人か・・・)
先日襲われた時に助けてくれた男だったと。
私、この人を落とすようなこと何かしたかしら?
何もしたつもりは無いのだけど・・・
「ちょ、ちょっと考えさせてください」
「はい!」
花束だけは手渡して、おとなしく去っていく。
その後姿を見送って、受け取った花束を手に色々考え込んでいれば。
「奈々! 今の、どういうこと!?」
「うーん、前にちょっと絡まれた所を助けてくれた人なんだけど・・・」
突然よね、あれは。
「まぁ、好いてくれてるみたいだし、少しずつ近付いていって、結婚してもいいかな」
「何言ってるの!?」
奈々のあまりにも突然な言葉に弥生は悲鳴のような声を上げる。
「だって、私は早く子供が欲しいんだもの」
二十歳の間くらいに産んで、若いママね、と言われたいのよ。
「そんな理由で決めないで! 好きな人と結婚しなさい!」
「だって、私が好きになれそうな人ってあまりいなくて・・・」
今の人は妥協範囲内だったから、いいかな〜って。
「奈々!!!」
そんな叫びは全く効果が無かった。
「うぅぅ、奈々〜・・・」
未成年であると言うのに、お酒を飲んで管を巻いている弥生。
その彼女を介抱するのは、彼女の右腕に納まっている青年。
「弥生さん、少し飲みすぎですよ」
ウーロン茶を手渡しながら、彼女を宥める。
弥生が暴れ回っていた小学生時代から何かしらとフォローして回っていた裕恭は、名実共に右腕にしっかり埋まっていた。
「だって、だって・・・あんな男に私の奈々がぁぁぁ!!」
「どうしようも無い男だったら、泣かしたら殺すとか言って殴ってくればいいじゃないですか」
「すでにやったわよぉぉぉ!!!」
わーん、と机に突っ伏して泣き始める。
「奈々ぁぁぁぁぁ」
そんな弥生を慰めて、落ち着くようにと一定のリズムで軽く叩き続けた。
そんな酔いの末に、彼女らが結ばれたのは寂しさを紛らわすためだったのか、それとも、こんな時にまでずっと支えてくれたからだったのか・・・
それは彼らにしか分からない。
私、家光はいじめろってどっかにメモされてるんだろうか?
と書いてて思ったこと。
まぁ、この奈々ママンが酷い人すぎてどうしようかとマジメに思います(笑)
お食事風景の方が酷いけどなぁ、最後の所とか、マジで(笑)
≪ 戻る ≫