「オレのことは今日からツナって呼んでくれ」
折角、日本にたどり着いたからには、今までの名前なんていらない。
そう言う唯一の付き人として来た同年齢の少年は笑う。
何だかわからないと見ていれば、彼はこう続けた。
「沢田綱吉、それがオレの名前」
今まで見知った表情とは違う笑顔を作り上げた彼を、知った名で呼ぼうと声を出しかけたルルーシュの真横を風が通り過ぎる。
攻撃。
仕える云々もすでに意味を為さないことを再認識し、彼を見返す。
「ツナヨシ」
呼び方をもう一度指定され、ルルーシュは諦めたように口を開いた。
「綱吉」
と。
アッシュフォード学園。
エリア11の中にあるブリタニア人だけの学校。
そこに彼らは身を潜めていた。
本来の名を捨て、目立たないように一般人に埋没し、隠れ住んでいた。
「ルル、どうした?」
ふわり、といったような淡い微笑みを向けられ、ルルーシュはハッとした。
「……ツナ」
日本へ捨てられるようにやってきた時から全く離れずにいた彼は今、ブリタニア人でありながら日本名を名乗ることのある変わり者となっていた。
共通点がツナであることから、友人は全員ツナと呼ぶ。
本来の名には入っていないその名を使い続けている。
「学園抜け出すなら今日はオレも連れてけよ」
キラリと光に反射する瞳を見返す。
賭けチェスのために出る時はいつも残る彼がそう言うのは珍しい。
しかし、彼がいつもしないことをした時は何かが必ず起きる。
その時は今のように琥珀に近い透き通るような瞳が金色に輝くように光る。
「また何か直感したのか?」
彼が言った時に限ってあまりにも何かが起きるので、何を知っている!? と詰め寄った時、彼はこう言った。
『直感が鋭いんだ』
何気ない日常の最中に、これから不幸や良いことが起きると分かるのだといつか言ったそれは、その後普通に口にされたことから現在ではルルーシュも信じている。
野球ボールが飛んでくると言われた方向から30分後に本当に飛んでくるなどが何度もあれば信じもするだろう。
その言葉で大切な妹が無事だったこともあるから尚更だ。
「あぁ……大丈夫だとは思うが……」
命に関わったり怪我をするという訳では無い、と言いながらも、どこか心配そうだ。
こんな風になっている時に拒否はしにくいため、今回は一緒に行くことにする。
特に何も起きないだろう、と思いながらも、何かがあった時のために、と――
往生際の悪かった貴族だったが、何とか無事にお金も手に入れ、リヴァルの運転する車で移動していた。
「ルル、いっつもこの道通ってる?」
「あぁ、そうだけど……それがどうしたのか?」
シンジュクゲットーを通る道を移動している車の中、景色を見ていた彼は唐突に聞いた。
その返答に、あぁそういうことか……などと呟きながら、やはり遠くを見ている。
こうなった彼はそうそう返事をしないことを理解しているがために、ルルーシュは返事を待ち続けた。
「一応、あまり離れないでくれ」
帰ってきた言葉はそんな一言だった。
どういうことだ、と詰め寄ろうとした瞬間、事態は取り返しが付かないほどに進んでいた。
シンジュクゲットーで起きたレジスタンスたちとブリタニア軍との戦いに巻き込まれたのだ。
「ルル、どっち行くんだよ」
そう言いながらルルーシュに付いていき、レジスタンスたちを目撃する。
救助のためにと躊躇なく近付くルルーシュと、このために着いてきたようなものであった彼が共に行く。
あぁ、もう! と諦めて協力しようとしたリヴァルは助けを呼ぼうとし、その後暴走したトラックにルルーシュと彼は連れ去られてしまった。
対応しようとしてできなかったリヴァルを残して。
ルルーシュが魔王の力を手に入れるのも、スザクが拘束されるのも、ただただ傍観しているだけだったが、ただ一人のブリタニアを出てきた時の同行者であり、付かず離れずで行動を共にし続けてきた彼だけはずっと共にいた。
その後の行動もルルーシュについていった。
スザクの身を解放するための行動の時も。
そして、レジスタンスに協力を求めようとしたルルーシュについていき、その場に起きかけたことを止めるために彼女の武器を握り止めた。
「はいはい、キョウちゃんストップ」
「ツナ……」
「やぁ、久し振りです、みなさん」
恭弥の後ろに立つレジスタンスの面々に軽く頭を下げる。
「なんでお前がここにいる! 綱吉!」
レジスタンスの一人が問い質す。
「だって、オレ、彼の友達ですもん」
「…………ツナ、どういう関係だ?」
「えっと、オレの彼女と、彼女がやってる活動の関係でのお知り合いのみなさん」
「…………レジスタンスがか?」
「あぁ、うん。いつでもブリタニア潰しに行けたんだけど、保留してただけだからねぇ」
そうそう、キョウちゃん美人でしょ。とのほほんと続ける。
「って、お前、潰せたってどういうことだ!」
「え? いいの? 潰していいなら……」
それなら、ちょっと電話で言うわ、と言いながら、携帯を手に取る。
「――あ、もしもし、ツー? 何か面倒になっちゃったから、やっちゃってよ」
ケロリと口にしたその言葉の向こうで、家継が応対した。
『――やっちゃってよ』
「あ、うん、わかった」
電話の音が高らかに鳴り響き、衆目の集まる中、手に取った皇子は軽く頷いた。
電話をそのままに、ふらっと立ち上がる。
その場にいる全員の目は一度として離れていない。
誰一人視界から外してない、外せない状態から、それは行われた。
「――さようなら、父上」
区切るように告げたその言葉の直後倒れる身体。
武器などを帯びることの赦されない玉座の間にて行われた凶行。
確かに武器は無かったはずなのに、と理解が出来ない。
彼は手の平を王へ向けただけ。
何かの放たれた風の反動だけで後は何一つ起きなかった。
「終わらせたよ〜?」
『サンキュ、お疲れ』
ピッと軽い音を立てた電話をしまいながら、犯人はのんびりと玉座の間を歩き去った。
現実に起きたことだと信じられないでいた貴族たちを残して。
「骸、日本に帰ろうか」
玉座の間のすぐ外に待っていた骸へと家継は声をかける。
貴族に産まれた彼を早々に自分付きの騎士にと任命し、ずっと傍に付き従えていた。
綱吉がいつ動いたとしても大丈夫なように。
そして、今動いた以上、もうこんな場所に用は無い。
一刻も早く綱吉たちに合流し、隠居してしまうのが一番だと思っていた。
「僕は構いませんけど次の皇帝をどうにかしなくて良いのですか?」
「別に一番上とか二番目とかできる人だし大丈夫でしょ」
「ま、それもそうですよね……」
やりたい人で任せられる人がいるなら、しゃしゃり出る必要は無い。
「じゃ、行くよ」
「イエス、ユアマジェスティ」
骸はそう応答し、ニヤリと笑ってみせた。
「――ってことで、今皇帝殺したから」
ピッと電話を切ってしまいながら、綱吉は笑う。
「って、そんな簡単にできるわけ……」
「ルルなら分かるだろうけど、オレに良く似た君の兄弟いなかった?」
沢山いる皇子たちの中に、容姿が良く似た人物がいなかったか、と問いかけられたルルーシュは王位継承権の低い人物までは知らないと舌打ちしながら脳内を検索した。
その片隅に引っかかった記憶を引き出した。
「さっき電話をかけたのはそいつ」
すぐに殺してくれたんだよね、ちょうど玉座の間にいたそうだから。
「ツナ、家継と骸来るの?」
「あぁ、そうだと思うから、どっか家用意してよ」
そろそろどっかに隠居したいよねぇ、と綱吉は恭弥へと笑う。
レジスタンスの面々は何が起きたのだと騒然としたまま、ルルーシュは本当に皇帝が死んだのならば今後起きるであろうことへと頭を巡らすのだった。
皇帝が病死したと報道されるニュースを見て騒ぐ生徒たちをつまらなさそうに見ながら綱吉はルルーシュに話しかけた。
「このまま隠遁しようかと思ってたんだけど、ルルが心配だからもうしばらく残るよ」
「そうか? ……お前にどうこうはもうできないだろ?」
切り札であっただろう皇子を使ったと考えれば、もう手は尽きたとルルーシュは言う。
「まさか。ツーは武器の一つだろうけど、実際戦うならいくらでも」
綱吉にとっては、家継などあったら嬉しい程度のものである。
いつでもイクスバーナーでもファーストエディションでも使えると思えば、武力は足りている。
遠くから焼き払うことでも、飛んで近付くことも、身一つでできるのだから。
「とりあえず、今は今後の世界の流れを確認してから動けばいいよ」
戦略は一から練り直しなのだから、ルルーシュはこの先を少しでも情報収集をして読み取り、先を決めなければいけないのだ。
「――ってことで、情報いりますかー?」
くふふ、と笑って近付いてくる骸。
「ツナヨシ、次どうする?」
ニュースに騒ぐ生徒たちのおかげで全くと言っていい程に話題にも上らない本日からの転入生が輪に加わる。
綱吉の従兄弟だと言って転入してきた家継と、そのお目付け役だと付けられた友達と名乗った骸だ。
「……お前、犯人じゃないのか……」
「うん? 気持ち悪いロールパンの処分者ならオレだけど」
まぁ、そんなの気にしなくていいよ。
「元々、いつかは処分するつもりだったんだしさ」
「身分なんて面倒なもの、いつでも捨てていいよな」
そっちのことを言いたいのだろう、と綱吉が続ける。
「面倒なもの、押しつけられるのが一番困るよね」
身分なんていらない、と言い切る彼らに、ルルーシュは頭痛を覚える。
自分は剥奪されたから気になっていただけなのだろうか……?
「骸はオレの騎士だし、幻覚使えるから向こうからこっちに来たのもそれで分からなくしてあるんだよね」
幻術、格闘、炎、超直感と使える能力が集まっていれば、いくらでも動きようがあるのだから。
「エリア11じゃなくて日本に戻るなら、このまま政治の流れを見守っても大丈夫かもね」
ルルーシュが王位を継ぎたいなら、すぐにでもそう動くけど? とあっさりと戦力を預けるようなことを言う知らなかった皇子の存在に、ルルーシュは少し考える時間をくれ……と苦しそうな声で訴えたのだった。
レイさま、リクエストありがとうございました!
リクエスト頂いた時からかれこれ半年ですね、本当にすみません!
色々と紛失や書き足しを続けてきましたが、ようやく完成ということで。
かき回させていただきました!!(笑)
この後、どの道を選んだとしてもルルーシュは幸せになれそうです。
何かその分苦労性になりそうな気もしますが(笑)
2010/12/13 作成
≪ 戻る ≫